5月9日

 8時過ぎに起きて、ゆで玉子で朝ごはん。午前中から、本が出来上がったあとのことを考え始める。名刺の束を繰り、『月刊ドライブイン』や『ドライブイン探訪』で出演させてもらった番組の担当者や著者インタビューをしてくれた方をリストアップする。昼、マルちゃん正麺(醤油)に豚ひき肉ともやしとニラの炒め物をのっけて食す。ケータイにメールが届き、一体誰だろうと手に取ると友人のA.Iさんからだ。新作が千秋楽を迎える頃まで――ということは6月に入る頃まで――は言葉を交わすことがないだろうと思っていたので、動揺しながら返信する。

 午後、『ドライブイン探訪』の書評や著者インタビューが掲載された媒体をまとめておく。先日、坪内さんから電話があり、「はっちゃん、すごいね。こんなに新聞や週刊誌で書評が出揃うって、なかなか珍しいよね。これは何か、ノンフィクション賞の候補になるんじゃない? いや、これだけ書評が出てるってことに対して、編集者は時代の空気を読むからね」と言ってくださって、せっかくならその流れを自分でかしかしておこうと思ったのだ。こうして並べてみると、週刊誌にはほぼ書評が掲載されていて、日曜には読売新聞にも書評が出る予告がウェブに出ているので、全国紙の五紙すべてに書評が掲載されたことになる。しかし、それで1万部に届かないというのは、なかなか世知辛いという感じがする。

 18時過ぎ、『インクレディブル・ハルク』を観ながら晩酌を始める。ツマミは大和芋マヨネーズと、こんにゃくのめんつゆ炒め。大和芋マヨネーズは、よく訪れる思い出横丁「T」にある山芋バターが好きで、それを真似て作ってみる。近所のスーパーで売っていた大和芋を買ってきて、ジップロックのコンテナに水を張ってレンジで5分ほど加熱し、ここから「T」では切り分けた山芋を焼き台に載せるのだが、当然焼き台はないので、バターで炒めることに――と冷蔵庫をみると、バターを切らしている。賞味期限に不安の残るマヨネーズを鉄板に出し、それを油がわりにして、「大和芋マヨネーズ」を作る。味は別物だけれども、これはこれでイケる。

 22時過ぎ、池袋駅西口にある「ひもの屋」で友人のF.TさんA.Iさんと待ち合わせ。昨晩インスタグラムで、「飲みに誘える人も思い浮かばず、自宅で晩酌」と『アイアンマン』を観ている写真をのっけたのを目にしたFさんが、稽古場でAさんに「え、誘ってくれたら飲みに行くのに」「アイアンマン観てるし」と、Aさんづてに誘ってくれて、飲むことになったのだ。一緒に飲みに行って言葉を交わせる相手というのは限られていて、今では真っ先に浮かぶのはこのふたりだけれども、二人とも新作に向けた稽古が佳境を迎えているので、とても今は飲めないだろうと思っていたのだけれども、僕はホッピーセット、Fさんは生ビール、Aさんは白ワインで乾杯。

 『市場界隈』が校了したことを祝ってくれて、先日出演したバラエティ番組の話題になる。「あれを観てるとさ、映像で動いてる姿が観れてじーんときちゃった」とAさんが言う。「あ、橋本さんが動いてる姿を観てってことじゃないよ?」と、言われなくてもわかっているのに、わざわざAさんが言い添える。「わかってますよ、モノクロの写真と、書き記された言葉でしか知らなかった店主の人達の動いている姿を目にして、ってことでしょう?」と返すと、「そう、そうやって動いてる姿を観てるとさ、橋本さんがじゃないよ、橋本さんがじゃなくて」とAさんが言う。そうやって言わなくていいことを繰り返すところがAさんらしくもある。

 昨日と今日観た『アイアンマン』と『インクレディブル・ハルク』の話を少しする。『アイアンマン』に出てくる「レガシー」という言葉が象徴的だったと話す。東西冷戦が下敷きにあり、その冷戦下で開発された技術があり、しかしの技術が自分たちの喉元に突きつけられている。そうした「レガシー」と直面しながら生きている――というのが、このシリーズの出発点にあるのだろう。そして、それは東西冷戦や特定の状況に限らず、誰もが過去の「レガシー」を引き継ぐ形で(あるいは、先日Fさんをゲストに迎えて開催した熊本のトークイベントでたどり着いた言葉を使えば、「過去の余韻」の中を)生きている。そんな話をしていると、いや、橋本さん鋭いっすねと言われ、嬉しくなる。

 初日が近づいている新作の話を聞いていると、稽古は順調に進んでいるようだったけれど、かなり疲れが蓄積しているように感じられる。体制的にも総動員に近く、かなり限界に近いことを舞台上に配置しようとしていることがわかる。その流れで、衣装のことも話す。昨年の春にツアーした作品でも、テーマのひとつは「ひかり」だった。そのときの衣装には、ひかりを当てることで発光して見える衣装と、ひかりを蓄えることで発光する衣装とがあった。さきほど話していた話が思い出され、「そういう意味で言うと、ひかりっていうのも「過去の余韻」の中にしかないことですね、とFさんに伝える。「ひかり」というのはここ数年の作品の中で軸となってきた言葉であり、そこに関する言葉を少し返すことができたような気がする。

 飲んでいるうちに、来年とその先に向けた話を教えてもらう。それを聞いた瞬間に、『市場界隈』のあとがきに記した言葉を伝えたい衝動に駆られたけれど、それは書かれた言葉として伝わるべきものだと思って、黙っておく。話して伝えられることには限界がある。発語される言葉を信じていないわけではないけれど(信じていなければ演劇を観ることはないだろう)、書かれた言葉だからこそ伝えられることもある。閉店時刻の0時が近づいたところで店を出る。これは「新作」と位置づける作品の初日が近づいているときはいつもそうなのかもしれないけれど、Fさんはとても不安そうに見えた。池袋駅まで歩きながら、少し話す。僕はこれからもドキュメントしか書き記すつもりはないし、ドキュメントだから書き記せる言葉はあると思っているけれど、でも、残念ながらそれでは触れることができない人たちや物事はあって、それは何によって可能かというと、フィクションだけが触れられるものだと思います、と伝える。これは書かれた言葉では伝えられなくて、今ここで言わなければ伝わらないと思って、Fさんにそう伝えておく。

5月8日

 8時に出勤する知人を、布団の中で見送る。10時半頃までゴロゴロして、カップヌードルナイスを食す。テレビではロシアの航空機事故の話。乗客が手荷物を持って脱出しようとしたせいで遅れが生じ、犠牲者が増えてしまったのではとコメンテーターが語っている。とても恐ろしい気持ちになる。僕は荷物を諦められるだろうか。買い直せるものであれば放っておけるけれど、たとえば自分がこれから半世紀かけて集めた資料のデータが詰まったパソコンを持ち歩いていたとして、それを諦めて脱出できるだろうか?――僕自身はそこまで思い入れのあるものはなく、ドライブインも沖縄も「自分が好きだから」という理由で取材しているわけではないけれど、好きなものにまっすぐ向かうのはとてもおそろしいことだ。その人が大切に集めてきたものが、何かのきっかけで損なわれてしまう瞬間のことを想像してしまって、おそろしくなる。神社の御神木が何者かによって枯らされてしまった事件が起きたときも、同じようなおそろしさをおぼえた。「ものはやがてなくなってしまうのだから、仕方がないよ」。そんなふうに言えるだろうか。それは、「何かを大切にしたところで、すべては徒労である」というのと同じことではないか。

 12時半にアパートを出る。連休明けだから、まとめて郵便物が届くかもなと思っていたけれど、昨日も今日も何も届かなかった。そういえば千代田線のほうが近いんだったと思い出して、千駄木から新御茶ノ水に出て、駿河台下へ歩く。新緑と学生が眩しく感じられる。13時に「伯剌西爾」に入り、喫煙席の一番手前の席に座り、レアチーズケーキと神田ブレンドを注文。ケーキを食べながら念校に目を通す。昨日受け取ったときは「ほとんど赤は入れないと思います」と言ったのに、やはりどうしても気になるところがあり、ちょこちょこ赤を入れてしまう。気づけば約束の15時をまわっていたので、8割ほど目を通したところで本の雑誌社へ。助っ人の方達が作業をしているところだ。ああ、これが噂に聞いた風景かと感慨深くなる。大学時代の友人であるA野さんは助っ人としてアルバイトをして、何度か話を聞いたことがある。途中までを手渡して、残りに目を通す。15時45分に作業が終わり、念校を戻す。帯まわりの文言もチェックして、すべての作業を終える。

 組版をしてくれる会社まで念校を届けに行くTさんと別れ、「東京堂書店」をのぞく。気になった本を4冊と、それに『文學界』を購入して、「ランチョン」へ。窓際の席に座り、ビールとメンチカツを注文。ビールを飲みながら、『文學界』を読み始める。「昭和最後の日、あなたは何をしていましたか?」という特集が組まれていたので、今月は『文學界』を買った(同じような理由で先月は『新潮』を買っている)。まずは坪内さんの「昭和が終わった頃」を読む。1月7日はまだ「正月休み中」で、「私は朝からずっとテレビを見ていた」と坪内さんは書く。特別番組が放映され続けるなかで、「この種の歴史番組の好きな私は、少しウキウキしながらテレビをザッピングしていた」と。僕は坪内さんから学んだと言えるほど博識でもなければ文学に明るいわけでもないけれど、態度についてはいろんなことを学んだと思っている。4月30日、ツイッターをひらけば「改元で騒ぐテレビに辟易とする」とつぶやく人がたくさんいたけれど、僕はテレビをザッピングしつつ、録画できる限り録画もしている。ところで、昭和最後の日にテレビをザッピングして、何が印象に残ったのだろうとページを繰ると、そこには保坂和志のエッセイが掲載されている。坪内さんの文章は、僕が学生だった頃に比べると、とてもストンと終わる。

 ぱらぱらめくっていると、編集者のTさんがやってくる。僕がこのあと「ランチョン」に行くつもりだと言うと、「今日くらいはご馳走させてください」と言ってくれたのだ。僕が『文學界』を読んでいるのを見て、えらいですね、とTさんが言う。いえいえ、毎号読んでいるわけではなくて、毎月気になったどれか一誌を買っているだけですと答える。いつ頃から神保町に足を運ぶようになったのかを尋ねられて、しばらく考えてみたけれど、それもやはり坪内さんに出会ってからだろう。「ランチョン」だって、いきなり自分で訪れるには大人の場所だという印象があって、神保町でのトークイベントのあとの打ち上げに混ぜていただくときや、対談の収録のときに僕もお邪魔するくらいのものだった。今でもまだ自分が訪れるには早いと思っているけれど、もう自分でくるほかないのだった。

 まだ仕事があるTさんは、ジンジャエールを飲み干すと、そこまでの会計を済ませてくれて、会社に戻っていく。それで帰るのははしたない気がして、ビールを1杯追加して、ぼんやり窓の外を眺めながら飲み干す。時計を見るとちょうど17時になったところだ。せっかく本の作業が終わったのだから、パーッと飲みに出たいところだけれども、行きたい店の半分くらいは昨日訪れてしまったし、好きな店の何軒かは水曜が定休日だ。誰かを誘おうにも、真っ先に思い浮かぶふたりは稽古期間中で、飲むどころではないだろう。おとなしくアパートに戻ることにして、新御茶ノ水駅の改札そばにある成城石井で惣菜を買って、谷中ぎんざの「越後屋本店」で一杯だけビールを飲んで、ちよだ鮨でパック寿司を買って帰途につく。『CITY』に向けて、マーベル作品をすべて観ておこうと『アイアンマン』を観始める。買っていたパック寿司、ヨレヨレにヨレてしまっていた。今日の『水曜日のダウンタウン』は、とても楽しみにしていた企画がある。知人が帰るまで待つかと、これまで興味を持てずにいた『ドキュメンタル』のシーズン5を観ていると、22時半頃になって知人から「飲んで帰る」と連絡が入る。

5月7日

 9時過ぎまでぐずぐず布団の中で過ごす。昨晩は飲み過ぎてしまった。朝の情報番組は、駅前の様子を中継している。風呂を入れて、湯に浸かり、『感情天皇論』を読む。あまり読み進められず。昼、セブンイレブンでタンメンとおにぎりを買ってきて食す。午後は来週の北海道行きに向けてやりとりを。18時過ぎにアパートを出て、ファミリーマートであさりのおにぎりを買って、食べながら歩く。白山駅から神保町に出て、本の雑誌社を目指す。扉が開けっ放しになっていて、中を覗くと、入ってすぐのテーブルで作業をしている方がいる。あの、ライターの橋本ですと挨拶をすると、奥にいた編集者のTさんが、「今、校正をチェックしていただいているところです」と教えてくれる。よろしくお願いしますと挨拶。

 念校を受け取り、都営新宿線で新宿に出る。今日はまだ原稿に目を通すモードになれないので、思い出横丁の「T」ヘ。ホッピーセットと山芋バターを注文。このお店は昨日まで4日間休みだったせいか、今日は大賑わいだ。セットを飲み干したところで、チューハイとつくねを追加。会計を済ませて靖国通りを歩く。今日はあまり歩きづらいと感じなかった。新宿3丁目「F」に入り、新しいボトルを入れる。こちらもかなり賑わっていて、店の一番奥の席――そこを好んで座る常連さんもいる――に座ることになってしまったので、早めに切り上げる。新宿5丁目「N」に流れると、今日はRさんとKさんが店に立っている日だ。はっちゃんのインスタを見てると、将来は絶対に根津に戻ろうって気持ちになる、とKさん。前にここを訪れたのは『ドライブイン探訪』が刷り上がったばかりの頃で、もう3ヶ月経ってしまっているけれど、まだ目立つ場所に置いてくれていて、申し訳ない気持ちになりつつ、ウィスキーのソーダ割を何杯も飲んだ。

5月6日

 7時過ぎに起きる。コーヒーを淹れて、セブンイレブンのふんわりベーコンマヨロールを食べながら朝刊を読んだ。前川喜平・元文部科学事務次官の講演会で司会をした女性市議や、改憲反対デモに参加した障害者施設職員の元に注文したおぼえのない品物が通販で送りつけられたという記事が出ている。品物が「ブラジャー16枚がぎっしり」「美容ドリンク、青汁、まな板など」「保湿クリームや化粧水」とあり、普段ぼんやり過ごしているせいか「なぜ?」「もっと送られて恐ろしいものはあるだろう」と思ってしまったけれど、「女は政治のことに口を出さずに、美容や健康のことでも気にしてろ」ということなのかと少し経って気づく。そんな思考回路の人がいるなんて!と言っていても始まらないけれど、どうすればその溝が埋まるのだろう。

 午前中は再校のゲラにもう一度目を通す。昼、豆腐納豆オクラそばを平らげて、14時半に高田馬場に出る。駅前にある喫茶「ロマン」で待ち合わせ、『市場界隈』の打ち合わせ。諸々確認したのち、再校のゲラを戻す。16時、予約してあった美容院に入ると、いつも切ってくれているDさんが「橋本さん、観ましたよ」と言う。僕は自分の仕事が何であるかも言わず、出演することも言っていなかったのだけれども、『マツコの知らない世界』を偶然観てくれたのだという。切ってもらっているあいだ、手渡されたタブレットをいじる。先月利用したときまでは雑誌が置かれていたのだが、雑誌はやめてタブレットにしたのだという。アプリで読める雑誌の中に『Tokyo Graffiti』があり、なんとなく開いてみると、巻頭特集は「等身大ドールの恋人と過ごすおじさんの日々の記録」だ。グラビアと、ドールとおじさんの会話が記されている。数年前ならともかく、今のタイミングでそういうテイの特集を組むのはどうだろう――そう思って読み進めていると、テイではなく、実際にそうやって過ごしているおじさんを2年間追って撮影したのだという。すごい特集だ。前に「余命宣告後の生き方」という特集を組んだと何かで読んで、思い切った編集をしているのだなあと思っていたけれど、驚く。「普通」の幅を広げようとしているのが伝わってくる。

 髪を切ってもらって、早稲田通りを歩く。さっきの『Tokyo Graffiti』を思い返しながら、自分には何が出来るだろうと考える。世界のありようを少し変えるような本を出すには、どんな可能性がありうるだろう。そんなことを考えながら早稲田の青空古本祭をのぞき、今後の企画を練りながら数冊購入する。すごい風で、新書や文庫は飛びそうなほど。缶ビールを買って東西線に乗り、茅場町日比谷線に乗り換え、三ノ輪に出る。待ち合わせ場所のジョイフル三ノ輪を歩いていると、ムトーさんが立っている。場所がわかりやすいようにと、待っていてくれたのだ。そこでセトさん、サキ先輩とも合流して、缶ビールで乾杯。ジョイフル三ノ輪を訪れたのは初めてだが、この商店街で一冊本を作りたくなるほど、気になる風景がいっぱいだ。地図を見ずに歩き、飲んで、店に入り、さらに歩く。セトさんに企画を相談し、オーケーをもらう。「信濃路」にたどり着いたところで皆と別れて帰途につく。

5月5日

 8時に起きる。洗い物をしようとしていると、珍しく知人が起きてきて、こっちは自分がやるのでコーヒーをお願いします、と言う。コーヒーを淹れて、昨日買っておいたあんぱんを食べながら朝刊を読んだ。一般参賀のことが報じられている。午前4時半頃から並んでいた17歳の少年が、「新しい陛下のおことばを最初に直接聞きたい」と語っている。その少年は印西市に暮らしているという。その少年が、午前4時半に皇居前にやってきて、「新しい陛下のおことばを最初に直接聞きたい」と語る。それは一体どういった心境なのだろう。どこから沸き起こってきたものなのだろう。

 1つ下の記事では、15歳未満の子供の数が報じられている。平成元年には2320万人だったのが、今年4月1日には1533万人だったとある。急速に少子高齢化が進んでいる――それはもちろん知っていたけれど、ここまで子供の数が減っているのかと驚く。3分の2以下だ。「もう駄目やろ」と知人が言う。子供を育てるということをまったく考えていないので、ぼんやり。新聞を読み終えると、気持ちを整えて、再校のゲラに目を通す。昼に豆腐納豆オクラそばを食べて、ゲラに赤を入れ続ける。16時、セブンイレブンで買ってきた柏餅。

 18時にようやく終わり、部屋着のままアパートを出る。前野健太の「こどもの日」を聴きながら団子坂を下っていると、少年野球帰りの子供とその父親とすれ違う。父親は同い年ぐらいで、聴いている歌のような状況だ。「遊んでばかりいられないってのもわかるけど、それじゃ歌はやってこないでしょう」。谷中ぎんざは今日も大賑わいで、「越後屋本店」は満杯だ。しばらく立ったままアサヒスーパードライを飲んだ。とっくに飲み終わっている人を見やりながら、あっという間に1杯目は飲み干してしまう。ようやく席が空き、琥珀エビスを飲んだ。帰りにスーパーマーケットに寄り、ツマミとレモンチューハイを買い求める。ここ二日間、カネコアヤノばかり聴いている。「恋しい日々」という曲に、「冷たいレモンと炭酸のやつ/買った」という歌詞が出てくるので、あまり得意ではないレモンチューハイを買ってしまった。

 アパートに戻り、少しだけゲラを見返す。「恋しい日々」の歌詞をプリントアウトしてキッチンに貼り、一曲リピートしながら晩酌の支度に取りかかる。ほどなくして知人が帰ってくる。ここ二日間で急速にカネコアヤノにハマりつつあるけれど、一緒に過ごしていない知人は、そのスピードにギョッとしている。「冷たいレモンと炭酸のやつって、絶対これじゃないやろ。え、まさか、それで苦手なレモンサワー買ったん」と知人が言う。これじゃなかったか。もやしの醤油炒めと棒棒鶏と焼き鳥をツマミに、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(第3話)を観る。続けて、録画だけが溜まり続けていた『いだてん』、4話と5話をようやく観た。いろんな仕掛けが詰まっていて、観ると体力を使うので再生するのに覚悟がいるけれど、やはり面白い。

5月4日

 6時過ぎに目を覚ます。7時には布団から這い出して、昨日買ってきた大塚英志『感情天皇論』(ちくま新書)読み始める。昨日は眠る前に喧嘩になったせいか、知人が早めに起きてきて、動物のように頭を肩にすり寄せてくる。コーヒーを淹れて、焼きそばパンを食す。朝刊に目を通したのち、ムトーさんとのトークイベントの告知をする。シャワーを浴びて、3月21日のトークイベントの構成に取りかかる。昼、何日か前に知人が買ってきたまま冷蔵庫に保存されていた麻婆豆腐丼をチンして食べる。弁当が何日も持つのかと思うと、と、考えるのをやめて平らげる。

 15時過ぎ、構成をまとめ終えて、メールで送信。外では雷鳴が響き、急に暗くなっている。まだ洗濯物が乾いてないので、2分に1度のペースでベランダの様子を伺う。16時半に洗濯物を取り込んで、雨が降り始める前にと、小走りでスーパーマーケットに出る。カップヌードルナイスで小腹を満たし、『感情天皇論』をちびちび読む。19時、チューハイを飲み始める。もやしの醤油炒めをツマミに飲んでいると、知人が帰ってくる。仕事が一段落するのに合わせて、鯖の塩焼きを焼き、市販のタレで棒棒鶏を作り、乾杯。『腐女子、うっかりゲイに告る』(第2話)観る。三浦すげえなと知人が言う。脚本を書いているのはロロの三浦直之さんだ。僕も頷く。

 ツマミを追加しようと、長芋をカットしてグリルで焼いているあいだ、知人に洗濯物の匂いを嗅がせてみる。昨日、新しい洗剤を買ってきて、それで初めて洗濯してみたのである。昨日はテイスティングをするように、買ってきたばかりのアタックZEROの匂いをずっと嗅いでいて、知人に白い目で見られたけれど、洗濯の仕上がりはまた少し違っている。たしかに匂いは落ちるのだろうけれど、「加齢臭も落とします!」という感じがする。それで知人に嗅がせてみたのだけれども、知人は「こっちの方が好きだけど」とだけ言う。

5月3日

 7時過ぎに起きる。洗濯機をまわして、布巾と雑巾を手洗いして除菌・漂白し、干す。シャワーを浴びて、コーヒーを淹れて、少しだけタンブラーに入れてアパートを出る。二重橋前駅で千代田線を降り、不安な気持ちになりながら歩き続け、京葉線のりばにたどり着く。手を繋ぐカップルや小さな子供を連れた家族連れが多くいて、ああそうだ、この路線はディズニーランドの最寄駅があるのだと思い出す。ただ、ディズニーだけでなく、僕の目的地である海浜幕張で降りる人も大勢いる。一体何があるのかと不思議に思っていると、幕張メッセフリーマーケットが開催されているらしかった。こんなふうにゴールデンウィークらしい日々を過ごしている人たちに出くわすと、びっくりしてしまう。

 10時半にbayfmにたどり着く。サトミツさんを見かけ、リトルトゥースとして声をかけたい衝動に駆られるが、そんなふうに声をかけられても困るだろうと我慢する。11時、『MOTIVE!!』という番組に出演する。MCは安東弘樹さん。『アッコにおまかせ!』に出演されている姿をずっと観ていたので、不思議な感じがする。どこのドライブインの話をしようかと、事前に想定していた内容があったのだけれども、「本を拝読していて、最後の『ドライブイン薩摩隼人』の方の話をどうしても紹介したいんです」とCM中に安東さんが言ってくださる。そんなふうに熱心に読んでくださったのかと嬉しくなり、話を組み直して、「薩摩隼人」の話をする。安東さんが読んでくださったのはこの箇所だ。

「今はな、民主主義を知らん人が多いよ」。貞美さんはそう切り出す。「人は皆、それぞれ考えが違うでしょう。違う考えを尊重する、それが民主主義よ。でも、今は違う考えを持っとる人を否定するでしょう。それではいかんわけよ。そうすると争いが生まれる。『軍国酒場』をやりよったけど、右翼でも国粋主義者でもないわけよ。戦争はいかん。もし戦争が起きれば私は逃げますよ」

 途中に1分ほどニュース原稿が読まれる時間があり、そこで気づいたのだけれども、今日は憲法記念日なのだった。あっという間に30分が経過し、お礼を言ってスタジオを出る。窓の外にはマリンスタジアムが見えて、向こうに海が広がっていた。ケータイを控え室に置いていたので、その風景を写せなかったのが悔やまれる。同じように京葉線と千代田線を乗り継ぎ、1時間かけて千駄木に帰ってくる。駅前で知人と待ち合わせ。酷い混雑ぶりだ。よく晴れているせいか、ソフトクリームを頬張って歩く人が大勢いる。どうしてこんなに細い道で、二人で並んで歩くのだろう。なんとか「砺波」にたどり着くも満席だ。他に選択肢も浮かばず、待つことにする。道路の向かい側の蕎麦屋も寿司屋も、長い列が出来ている。

 10分ほど待って、入店。まずはビールと餃子を注文する。別のテーブルのお客さんが、麺を皿に出している。食べきれなかったとしても、わざわざ出す必要はないだろうに。不思議に思っていると、その麺をビニール袋に入れて、鞄に仕舞っている。餃子が運ばれてきたところで、ラーメンとチャーハンを追加する。瓶ビールを2本飲んだ。テレビから大きな歓声が聞こえる。誰かが250本目のホームランを打ったらしかった。会計を済ませて店を出る。よみせ通りから流れてくる人の波だけで、今日は相当な人出だとわかるが、知人が「久しぶりに『越後屋本店』に行きたい」というので、谷中ぎんざを目指す。アサヒスーパードライを1杯だけ飲んだ。近くでやっている毒蝮三太夫のラジオ収録を見学に行く知人と別れ、アパートに戻る。

 18時過ぎ、バスで池袋に出る。バスは空いていたけれど、池袋は大学生くらいの若者で大賑わいだ。ビックカメラソーダストリーム炭酸ガスシリンダーを交換したのち、ジュンク堂書店に立ち寄り、何冊か本を買い求める。検索機で『ドライブイン探訪』を検索してみると、1週間前は52冊だったのに、53冊になっている。ということは追加で注文してくれたのだろう。先週は気づかなかったけれど、ノンフィクションが並んでいる1階の棚に並べてくれている。明治通りを下って「古書往来座」。のむみちさんが「『マツコ』観たよ」と声をかけてくれる。これからやりたい企画が5つくらいあると話していると、「でも、よかったねえ」とのむみちさんが言う。これまでは、どうやって形になるかわからないまま取材してたけど、形になることが見えると全然違うでしょう、と。たしかに、やりたい企画はまだどれも僕の頭の中にあるだけだけど、もうすぐ2冊目を出せることもあって、実現不可能ではないのだと思えている。

 「そうだ、瀬戸君と話した?」とのむみちさん。ゴールデンウィークで大掃除をしている人も多くて、買取が続いて店の中に入りきらなくて、外で整理をしているのだという。昨日、ちまっとした量で出張買取をお願いしたことが申し訳なくなったけれど、「はっち、団子坂はすぐ近くだから、全然いつでも気軽に声をかけて」と言ってくれる。コンビニでロング缶のアサヒスーパードライを2本買って、池袋駅に引き返す。時刻は20時を過ぎたばかりだが、酔いどれた若者たちが居酒屋から吐き出されている。山手線と総武線を乗り継ぎ、阿佐ヶ谷。やっぱり引き返そうかと思いつつも、思い切って「Roji」に入ると、ミシオさんが「あ、やっと飲める!」と言ってくれる。今日は何人かの方が店内のBGMを選曲していて、そのうちのひとりがミシオさんだ。福岡でトークイベントに出ていただいたあと、「また飲みましょう」と言っていたけれど、ようやく乾杯できた。周りの人たちに紹介してくれるときに、「氏は、普段はライターをしてるんだけど、この『ドライブイン探訪』に関しては、ルポライターだと持ってます」と、本を推薦してくれる。僕の仕事はドキュメントおよびルポルタージュだと思っているので、それを正しく言ってくれるだけで胸が一杯になり、音楽を聴きながら黙々とウィスキーのソーダ割りを4杯、ロックを1杯。