昼過ぎ、新幹線で京都へ。京都出張中だった友人のA野さんと連絡を取り、京都タワーの裏にある立ち飲み屋「ひょうたん」へ。瓶ビールで乾杯。カウンターの中にはいくつもツマミの皿が並んでおり、「これください」と注文するとレンジで温めてくれる。料金はキャッシュオンだ。厚揚げ焼とカレイの煮付けをツマミに、「最近は酔いが早くなった」と二人で話す。僕は外飲み派だけど、家飲み派のA野さんがどうしてと訊ねると、「家だといくらでも飲めるでしょう」との答え。たしかに、外で飲んでいれば会計を気にしながら飲むが、家だとそういう要素が減るだろう。

 2杯目はチューハイにした。A野さんは「オロチュー」という謎のメニューに挑戦する。「オロって何ですかね?」とA野さん。「大根おろしって可能性もありますよ。少し前にテレビで『大根おろしをヨーグルトに入れて食べると、水溶性食物繊維が加わって効果的』とやってたから、最近毎朝大根をおろしてるんですよ」と僕が言うと、「もうちょっと別の方法で食物繊維摂れるでしょう」とA野さん。オロチューはオロナミンCチューハイであった。

 チビチビ食べているうちに煮付けは冷たくなった。ようやく食べ終えると、牛肉とピーマンのしぐれ煮とおからを注文する。酒を飲まない時は食べたいと思わないおからだが、酒場で発見するとなぜだか嬉しくなって注文してしまう。3杯目に日本酒を注文して、何かやってみたいことはあるかと聞いてみる。少し考えて、「SLを運転してみたいですね」とA野さんは言う。A野さんは飛行機好きでもあるのだが、レールの上を走るSLを運転することに興味があるのだという。

 いつまでも飲んでいたいところだが、A野さんはこれから東京に戻ることになっている。17時前には店を出て、京都駅で別れた。大学を卒業したばかりの頃、よく酒を飲んだ相手はA野さんだ。当時は「底なしだからね」なんて言いながら次々ツマミを注文していたはずなのに、今はこれだけで満腹だ。

 バスで四条河原町に出て、「ナインアワーズ京都」にチェックイン。比較的新しいカプセルホテルだ。今週末は葵祭だということもあり、いつにもましてホテルが高く、予約が取れなかった。この「ナインアワーズ京都」は、京都のホテルを探すたびに検索に引っかかり、前から気になっていたので、今回居心地を確かめてみることにしたのである。

 まず、カプセルホテルは「入って寝るだけ」と思っていたのだが、「チェックイン」という概念があることに驚く。つまり、一度受付を済ませてロッカーに荷物を預け入れて、自由に出かけることができる。当たり前かもしれないが、これまでカプセルホテルを使ったことがないので意外だ。原付でザゼンボーイズを追いかけていた頃は漫画喫茶に寝泊まりしていたので、「安い寝床は自由に出入りできない」と思い込んでしまっていたのだろうか。

 荷物を預けて街に出る。二条でバスを降り、BOOK CAFE & GALLERY「UNITÉ」へ。この会場で武藤良子個展『沼日』が開催されており、今日はそれを目当てに京都にやってきたのである。壁二面に大小の絵が飾られており、台にも小さな絵が並べられている。くるんと丸まった紙が、ぶっきらぼうに置かれていて少しおかしくなる。展示されている絵の中で、二枚の絵から目が離せなくなる。カフェスペースからもその二枚が見渡せそうだったので、ホットコーヒーを注文して、しばらくその二枚を見つめていた。

 閉店時間の19時が近づいてきたところで店を出て、すぐ近くにある「赤垣屋」へ。金曜日だから満席だろうとダメ元で入ったのだが、幸運にも1席だけ空いていた。まずは瓶ビールとカツヲ刺しを注文する。瓶が空いたら熱燗にしよう――そう思ってビールを飲み始めたのに、なかなか酒が進まなかった。「赤垣屋」は相変わらず素晴らしい店で、店員さんの仕事ぶりや聴こえてくる常連さんの会話は心地よいのだけども、内臓が酒を受け付けなくなっている。瓶ビールを飲み干すだけで45分もかかってしまった。

 こないだ読んだ「食うことと書くこと」に引きずられてしまっているのか。でも、それにしたって自分はまだ33歳だ。熱燗と一緒におでんの大根と玉子とたこを注文する。このおでんもやっとの思いで平らげて、20時半、京都市役所前に移動する。歩いているあいだはずっと水を飲んでいた。市役所前でセトさん、ムトーさん、それにミヤモトさんと合流する。ムトーさんの勘を頼りに歩き、「よしみ」という店に入る。良い店だ。

 はもの湯引きか何かを注文しようとすると、店主らしき男性が「はも、食べたことあります? ないんやったらまずはしゃぶしゃぶをおすすめします」というので、その言葉にしたがってはもしゃぶだ。ガスコンロと鍋が運ばれてくると、お父さんが横について食べ頃を支持してくれる。とてもうまそうなはもなのに、もう何も口に入らず、食べるフリだけしてミヤモトさんに食べてもらった。

 酒ももう飲めそうになく、最初は烏龍茶か何かを飲んでいた。年とると飲めなくなるって言うけど、さすがに早過ぎると思うんですよね。僕がそう話すと、「人は一生に飲める量が決まってて、ハッチはその限界がきたんだよ」とムトーさんが言う。セトさんは京都に来るのは物心がついてからだと初めてだといい、チェーン店の看板までシックになっていることに感心している。「鴨川に泳いでる鯉まで白か黒しかいないもんね」なんて話しているのがセトさんらしく、笑ってしまう。

 あまりに具合が悪く、まだまだ飲み始めたばかりの3人と別れてカプセルホテルに戻った。30分と一緒に飲めなかったのが残念だ。ホテルに歩くときもずっと水を飲んでいた。自分のカプセルに横になってみると、まだ21時過ぎだというのに寝息が聴こえる。この薄さだと、僕のいびきで大いに迷惑をかけてしまうだろう。そんなことを考えているうちに眠ってしまった。