9時過ぎに起きる。さて、今日の取材に向けてもう少し本を読み込んでおこう。たしかリュックの中に……リュックの中に………リュックが見当たらない。昨日の沖縄料理屋に置いてきてしまったのだろう。午前中から何度か電話をしてみると、昼頃になって連絡がつく。やはりこの店に忘れていたらしく、すぐに取りに向かった。知らなかったのだが、その店はランチも営業しているようだったので、せっかくだからと沖縄そばを食べる。

 13時過ぎ、神保町に出る。「伯剌西爾」に入り、アイスコーヒーを飲みつつ、取材のことを考えて過ごす。14時50分、会計を済ませて、奥の禁煙スペースに移動する。15時から、そこを借り切って取材することになっていたのだ。ほどなくしてTさんがやってきて、取材が始まる。取材を受けているうちに、何かこう、導いてもらっているような感覚になる。こうやって書けばいいんだ、と。そのことは、『e』誌が出たときにまた記す。取材が終わったあと、近くの海鮮居酒屋で乾杯した。そこにはOさんも同席した。今度、Oさんの小説が雑誌に掲載されるという。それに関連した話を聞いていると、心の底から羨ましくなる(小説を書きたいということではないけれど)。その羨望を表には出さないようにホッピーを飲んでいると、「橋本さんはもう自分の原稿が載るのに慣れてらっしゃると思いますけど、私はドキドキで」とOさんが言う。他意はないのがわかるだけに、少しやさぐれた気持ちになる。僕は自分の原稿が載るのに慣れたことはない。構成の仕事で名前がクレジットされることには慣れたかもしれないけれど、「自分の原稿」ということが当てはまることを書いたことは、数えるほどしかないのではないかとさえ思う。

 帰り道、なんとなく歩いていたくって、大通りを避けて歩いて帰った。東京というのはいい街だなと、後楽園あたりを歩いているときに思った。なんとなしに歩ける場所なんて、地元にはなかった。近所の酒場に入り、途中から知事も合流して酒を飲んだ。今日はスタッフが少ないせいか、店の半分くらいは潰したまま営業していた。僕が落ち込んでいるのを見て、なんで落ち込む必要があるのか、意味がわかんないと知人は言った(特に昨日の関して)。そうねえ、それはそうなんだけどねえと言いながら酒を飲んで、さて帰ろうかとしたところで、「スイカがあるんで、よかったら食べていきませんか」と店長が言った。立派なすいかをいただいているうちに、いつのまにか気分は晴れやかになっている。