夜、渋谷へ。今日はWWWで「九州大震災復興ライブ」が開催されている。体調が優れないが、「売り上げはすべて早川倉庫に寄付される」と聞いて予約したこのイベントに行かないわけにも行かないだろう(支払いは当日精算であり、行かなければ予約するだけしておいてお金を払わなかったことになる)。会場の入り口で昨日一緒に飲んだ人が3人いて驚く。

 バーカウンターでジンジャエールを買ってフロアに入ると、すでに坂口恭平による演奏が始まっている。その歌とトークを聴いていると、その場に集まった人たちのコリをほぐす施術をおこなっているようにも感じられる。そこに魅力の一つがあるのだろう。このイベントには大勢の出演者がおり、長丁場になるらしかったが、WWWという会場でライブを観ていると(観客の少ないときは別として)落ち着ける場所を見つけられず、体調が優れないことも相まって1時間ほどで会場を後にする。

 知人もちょうど帰宅しているところだというので、新宿で落ち合うことにする。一昨日、ルミネを物色しているときに気になっていた服があるので、知人も一緒に見てもらうことにする。アダムエロペに入ってみると、その服が見当たらない。おかしい、たしかにこの店だったはずなんだけどとキョロキョロしていると、「何かお探しですか?」と絶妙のタイミングで店員さんが声をかけてくれる。

「緑と黒のボーダーのシャツがあった気がするんですけど」。そう告げると、店員さんはすぐにピンときたらしく、少々お待ちくださいとバックヤードに下がる。ほどなくして目当てのシャツが運ばれてきた。残り1点になってしまったので後ろに下げていて、このまま売れなければ店員さんが買うつもりだったのだという。そのシャツはパリの「メリンダグロス」というブランドのシャツで、若い二人組が架空の女性・メリンダグロスに着てもらいたい服をイメージして作っており、道楽というと言葉は悪いけど、採算度外視で「良いものを作ろう」と活動しているのだと店員さんが説明してくれる。

 2日前に観た瞬間から、「このシャツが欲しい!」という気持ちになっていた。ただ、その日いた店員さんから「このシャツ、“ザ・モード”って感じですよね。スラックスなんかに合わせてもいいと思います」と声をかけられていて、モードが何たるかもわかっておらず、スラックスを持ってもいない僕は購入を見送っていた。何より値が張るということもある。でも、今日の店員さんの説明を聞いているうちに購入を決意する。ただ、サイズが選べないこともあり、念のために試着をすることに。

 カーテンの向こうからは「最近こういうシャツを探してるみたいなんですけど、試着してみたら似合わなかったみたいなことがあったんです」と知人が店員さんと話している。試着してサイズが似合わなかったり、そもそも似合わなかったことを見越してそんな話をしていたらしいのだが、カーテンを開けてみると「似合ってるね」と知人も言う。「もふが今まで『これが格好良い』という服を見ても、何でそれを選ぶんだろう、何でそれを良いと言うんだろうとしか思わなかったけど、これは良いと思う」と。ホクホクした気持ちでレジに向かい、3回払いで購入する。

 気に入った服が買えたので、すっかり体調も良くなった気がする。高田馬場まで引き返し、「田んぼのお芋」という沖縄料理屋に入り、オリオンビールで乾杯する。アーサ豆腐というメニューを注文すると、豆腐の上にとろろ昆布をのせ、その周りをたっぷりのアオサが囲んだ皿が運ばれてくる。これが大変うまかった。飲んでいるあいだ、アダムエロペの店員さんの接客の素晴らしさについて語る。知人に予言された通り、これから「服を買おう」と思った時にはあの店に足を運ぶだろう。