朝7時に起きる。新聞を読んだのち、出汁を取って味噌汁を作り、コーヒーを淹れる。11時過ぎ、刷り上がった37通目の『手紙』が届く。本当は36通で終わるつもりだった企画だけれども、もう1通だけ、これはドキュメントとしてというよりも「私」自身の手紙を出しておきたくなったので、37通目も印刷した。4枚だけ取り出して、芝郵便局へ。37通目は3月21日に東京タワーで書いたので、芝郵便局で風景印を押してもらう。ハンコを乾かしながら地下鉄を乗り換えて、高田馬場に出る。富士そばでゆず鶏ほうれん草そばを食し、美容院。髪を切ったのち、池袋の接骨院

 14時45分に芸劇に到着し、地下で質問を練っていると、青柳さんがやってくる。うまく話せるだろうかという気持ちになりつつ、しばらく雑談する。15時にシアターイーストの楽屋に入り、藤田さんと青柳さんの対談を収録。『みえるわ』ツアーを振り返る対談である。演劇に関する取材というのは、基本的には公演前に行われる。公演の告知を兼ねるのだから当たり前ではあるけれど、その段階では作品は完成していないことが多い。観客としては(あるいは言葉を書き残す人間としては)、公演を観終えたあとに振り返った言葉こそ聴いておきたいという気持ちが強くあるので、僕から申し出て対談をしてもらうことにしたのである。

 話を聞いていくうちに『手紙』の話になり、そのタイミングで37通目を手渡す。ふたりにはいつも『手紙』を手渡ししてきた。刷り上がってすぐに渡すので、そこにはラベルも切手も貼られておらず、したがって風景印も押されていなかった。でも、最後の1通目だけは少し位相が違うので、せめてこれだけはと芝郵便局で風景印を押してもらっておいたのだ。

 16時45分に対談が終わり、芸劇のロビーでテープ起こしに取りかかる。18時半に起こし終わり、ビールを買って「古書往来座」まで歩くと、すでに外の灯りが消えていた。今日は月曜日だから18時で閉店なのだった。ただ、店内にはまだ灯りがついていて、覗いてみるとセトさんとムトーさんの姿がある。中に入れてもらって、乾杯。もうレジは閉めていたのだろうけれど、永井荷風の本を数冊購入させてもらった。旅を終えた今、川端康成永井荷風を読まなければという気持ちでいる。僕は読むのが遅いので、一年くらいかかるだろうけれど、じっくり読もうと思っている。

 永井荷風を読みたいと思ったのは、生活の中にある優雅さみたいなことを考えたいからだ。『みえるわ』ツアーはハイエースでまわる過酷な旅だったけれど、それが過酷であればあるほど、そこにどういう優雅さを生み出そうとするかが大事だと感じるようになった。そんな話をすると、セトさんは池袋駅のキオスクの話をしてくれた。池袋駅のキオスクなんてすごく忙しいし、いろんなお客さんがいるけれど、すごくにこやかに接客をしている人がいる、その人の姿を観るたびに自分もそうありたいと思うけれど、なかなかその境地には至れない――そんな話をしてくれた。

 最初の1本は店の中で飲んでいたけれど、せっかくだから法明寺で花見をしようという話になる。雑司が谷の法明寺には屋台も出ていて、昨年もそこで花見をした。桜はもう満開だ。屋台は去年よりも増えていて、射的の屋台まである。たっぷり桜を満喫できるが、ほどほどの混雑であるところも素晴らしい。ブロックに腰かけて飲んでいると、よれよれのおっちゃんが「屋台のテーブルも空いてるから、こっちで飲んでもいいんだよ」と言ってくれる。ありがとう、でもこっちのほうが桜が見えるからと返して、飲み続ける。途中で退屈さんもやってきて、4人で楽しく飲んだ。