朝8時に起きて、ジョギングに出る。不忍池をぐるり。朝は豆腐とネギの味噌汁を食す。昼は例によってキャベツと酒盗のパスタ。午後、月刊ドライブインで取材させてもらった「レストハウスうしお」に電話。数日前に原稿を送って読んでもらっておいたので、修正が必要な箇所を確認する。最後に「雑誌が完成いたしましたら、すぐにお送りしますので」とお伝えしていると、「昨日家内とも話してたんですが、こんなに素晴らしい文章にまとめてくださって、これだけのことをしていただいて、何もお礼しないというわけには」とおっしゃってくださる。もちろんそんなつもりはなく、素晴らしいのは僕の原稿ではなくそれを話してくださった方の人生であるのでお礼というのは固辞したが、そんなふうに言ってもらえるのはとても嬉しいことだ。ミニコミを作っていても、感想に触れる機会というのはほとんどないので、お礼を言う。今度また遊びに伺いますのでと伝えると、「ぜひ来てください。夏に来ていただければ、生うにを召し上がっていただけますから――と言って、もう私もこの年齢ですから、いつまで生きていられるかもわかりませんので、言葉だけになってしまうのも残念ですから、ぜひ近いうちにいらしてください」とおっしゃる。店主の方は今年で82歳だ。「ぜひ近いうちにお邪魔して、生うに丼をいただきます」「ぜひ。いただくだけじゃなくて、お土産に持って帰ってもらうぶんまでご用意しておきますよ」。

 18時半に有楽町へ。ビックカメラの前でA・Iさんと待ち合わせ、日比谷シャンテ。初めて地下に降りて、「ひつじや」に入店。編集者のYさんがよく利用する店だということで、人のナワバリにお邪魔しているようなしてやや気が引けるが、メニューを見て驚く。話には聞いていたが、本当にワインが原価で提供されていて、1200円程度のボトルもある。僕はまずレバノンビールを、Aさんは最初から白ワインを注文して乾杯。南アジアから西アジアにかけての料理を扱う店らしく、店員さんも向こうの方だ。のんびりした接客だが、この値段なのだから十分だ。いくつかツマミを注文して、最近観た作品のことを話す。Aさんが最近観た作品は、面白くないというほどではないけれど、自分が演劇に求めているものはもっと圧倒的なもので、それを観たことで私が変わってしまうくらいのものであって欲しいとAさんは言う。Aさんとは居場所が逆ではあるけれど、僕も同じことを思う。僕が先日観た作品の感想を話す中で、「ただ、あの俳優だけはよかった」と言うと、Aさんの顔が曇る。Aさんもその作品を観ていたのだが、その俳優が一番引っかかったという。「でも、誰か別の俳優が台詞を語っているとき、他の人たちはただ立ち尽くしてる中で、あの人だけちゃんとそこにいる人として立ってませんか?」と伝えると、その感じも含めて引っかかるのだという。

 人生というのは限られているのだから、つまらないと思うものに触れている時間はない。そんな話にもなった。Aさんは最近沖縄について書かれた本を読んで、それがあまり面白くなかったらしく、「橋本さん、もっと面白いの書いてくれよな! 頼むで!」と言われる。こないだ飲んだときに、沖縄の牧志公設市場の人たちの聞き書きをできないかという話をぽろりと伝えていたからだ。公設市場は建て替えが迫っていて、今の雰囲気はもうすぐ消えてしまう。僕は毎年6月23日前後は沖縄に出かけているので、今年は市場の近くに宿をとって一週間ぐらい滞在し、そこでお店の人たちとやりとりしたことを滞在記として書けないかと考えている――そんなことを話していた。Aさんが読んだ本も、沖縄で触れ合った人たちのエピソードをまとめたものらしいのだが、一個一個のエピソードが薄く、なぜそのエピソードを拾ったのかが謎だったのだという。「それを読んでてな、橋本さんやったら、相手に気持ち悪いと思われても、もっと話を聞こうとするんと違うかなと思ってん」とAさんは言う。

 ひとしきり飲んだところで会計をしてもらうと、ふたりで3600円と激安だ。日比谷でこの値段とは。まだ帰るには早いので、コンビニで白ワインのボトルを買って、日比谷公園に出る。噴水の見える広場まで出るつもりでいたのだが、「セーヌ川ごっこであれば水辺だろう」ということになり、心字池のほとりにあるベンチに座って飲むことにする。23時頃まで飲んで帰途につく。