1月19日

 7時過ぎに目を覚ます。9時過ぎにある天ぷら屋さんを再訪したが、話を聞かせてもらうのは難しそうだ。なんとか「こういう取材をしているんです」とこれまでの原稿を手渡したけど、無理やり話を聞かせてもらうのも違うだろう。迷いながらゲストハウスに戻り、アイフォーン経由で遠隔操作で録画を観る。洗濯を干して、ぼんやり。

 昼、カレーライスが食べたくなるも、カレーを食べられるお店が一軒も思い浮かばず。市場の二階にある「道頓堀」に入り、ソーキそばと生ビール。お店のお母さんがもずく酢をサービスしてくれる。「橋本さんね、本は何月に出るの? 本が出たらね、市場の中で売らせてもらえるようにするといいよ。市場の人たちはね、忙しくて本屋まで買いに行かないから。ものを売るにはね、頭を使わないと駄目よ」とアドバイスをいただく。

 ビールを飲んだせいか眠くなってきた。「ザ・コーヒー・スタンド」でフィルターコーヒーを注文する。先日、原稿のサンプルを渡しておいたこともあり、その感想を話してくれる。「こうやって読んだら、いいこと言ってるね。そんないい人じゃないんだけど」とマスターは笑う。市場界隈を散策し、どこに話を聞いておくべきだろうかと考える。「パンの大和屋」でアップルパイを買ってゲストハウスに引き返す。

 17時過ぎ、再び「パンの大和屋」を訪れる。先ほどは忙しそうだったけれど、少し落ち着いたようだったので、お話を聞かせていただく。10月にも伺っていたので、追加取材。数分経ったところでバタバタとお客さんがやってきて、食パンが品切れになる。追加で仕入れにいくというので、じゃあそのあいだ留守番しながら待っていますと伝える。こうして座っていると、やはり慣れず、どぎまぎする。ベテランの店主たちは皆、ただそこに座っているだけといった佇まいで、自然に座っている。僕はどうしても自然を装ってしまう。パンを一個だけ売る。少し先の路地を友人が歩いていくのが見えた。

 18時45分に話を聞き終えて、さて、どうしようか。今日から友人たちが到着するので、昨日の午後に「明日の夜、よかったら一緒に」と誘われていたのだが、お店はもう閉店してしまっている。そちらは事前にやりとりをして飲む約束をしているとしても、その時点では僕のことは含まれていないだろう。でも、僕が沖縄にいると知り、誘いの電話がかかってくるかもとゲストハウスに戻り、連絡を待つ。一つ下のフロアでは、珍しく宿泊者たちによる宴会が催されていて、クラッカーの音が響く。19時半になったところで、これはもう誘いの連絡はなさそうだと諦めて、ひとりで飲みに出かけることにする。

 土曜日ということもあり、「足立屋」は大賑わいだが、なんとかひとりぶんのスペースを見つけ、せんべろセットを注文。隣には小さな子供をふたり連れた夫婦がいて、あれこれ悩んで注文用紙に書き込んでいる。それを受け取った店員さんが、すみません、こういう注文はできないんです、と断っている。せんべろセットはツマミ1品と酒3杯だ。その3杯をシェアしようとして、断られたらしかった。数日前に飲んだときも同じように注文しようとしていた人がいたけれど、数人で千円ではさすがに元が取れないだろう。

 オリオンビールを3杯飲み干して、安里を目指す。缶ビール片手に歩いていると、すごくがっかりした気持ちになってくる。偶然同じ時期に那覇に滞在していると知っていて、一緒に飲みたいと思ってもらえなかったのだなあ。そのことを知人にLINEで伝えると、そんなことでなぜがっかりするのかと不思議そうにしている。うっすらした付き合いしかない知り合いであればがっかりしないだろうけれど、週に何日も一緒に飲んでいた相手だ。彼がお店を始めるという報せも、直接ではなく人から聞くことになり、「彼らしいな」なんて思っていたけれど、そんな微笑ましい話ではなく、一方的に親しみを感じていただけで、何とも思われていないだけだったのかもしれない。「うりずん」で泡盛を飲んだのち、隣の酒屋の犬を眺め、「東大」でおでんを食べて帰途につく。