1月21日

 3時過ぎに目が覚める。早く眠ってしまったとはいえ、さすがに早起きが過ぎる。何度寝かを繰り返し、7時半にストレッチを始めて、8時にジョギングに出る。今回の滞在でようやく気づいたのは、沖縄では歩いている人を想定せずに運転している人が多い気がする。細い路地から大通りに出るとき、車はまず歩道を超えて、通りに出る。そこには歩行者や自転車が通っている可能性があるから、歩道部分に差し掛かる前に徐行するなり停止するなりする。でも、こっちのクルマはいきなり車道ギリギリまで出る。その際、運転手が道路の右方向しか見ておらず、左側から歩いたり走ったりしていると、轢かれそうになる。今回の滞在中だけで二回轢かれそうになった。

 5キロほど走ってゲストハウスにたどり着く。シャワーを浴びて、今日やるべきことを確認する。10時過ぎ、オープン直後ならまだお客さんがいなくて写真を撮りやすいだろうと「大衆食堂ミルク」を覗くも、もうすでにお客さんがいらっしゃり、そっと扉を閉める。やはりお昼のピークを過ぎた時間がベストだろうと思い直し、ファミリーマートどん兵衛(特盛)を食べつつ、この数日のうちに取材したいお店の質問リストを作成する。知人とLINEしていて、昨日考えていたことを思い出す。市場界隈を歩いていたとき、何かしゃべり続けている店主がいた。ハンズフリーで話しているのかとも思ったが、そうではないようだった。その店の前を通りかかると、「同性愛者の××さんは」云々としゃべり続けていてゾッとした。それと同時に、その人がそんなふうになってしまうまでの時間のことも考えてしまう。

 13時半、公設市場の雑貨部で取材依頼(出発前に手紙は送っていた)をしたのち、衣料部の「赤田呉服店」でお話を伺う。昨年6月にも取材していたけれど、追加の取材。14時半、「大衆食堂ミルク」を覗くとちょうどお客さんが途切れたタイミングだ。まずはお三方の写真を撮影させてもらって、ちゃんぽんを注文し、作っている姿も撮影させていただく。ちゃんぽんをかき込んで、「バサー屋」へ。前に沖縄を訪れた際、「大衆食堂ミルク」の店主から「今帰られたお客さん、この新聞記事の人よ」と新聞のコピーを見せてもらっていた。そこには、バサー屋というお店を営む方は、何十年も前から民具や衣服、それに復帰前の沖縄で流通していたお酒などをコレクションしているのだ、と書き記されていた。それを知って、手紙を出し、話を聞かせてもらえませんかとお願いしていたのだ。

 「私はね、すごいコレクションをしているんです」。名刺を差し出しながら、店主はそう言った。それに続けて、「そうやってね、自分に言い聞かせてるんです」と笑う。まわりからは「あんなものをコレクションしても何にもならないのに」と言われ、家族からも「なぜそんなことに金を使うのか」と言われながらも、20代の頃から沖縄中をめぐり、さまざまなものを収集してきたのだという。話を聞きながら、失礼とは思いながらも、どうしても僕自身を重ねてしまう。ここ数日はあまり取材が進んでいなかったけれど、急に晴れ晴れとした気持ちになる。1時間ほどでおいとまして、帰りに通りかかった「市場の古本屋ウララ」で立ち話をしていると、「今日は良い顔されてますね」とウララさんが言う。

 17時、まずは「足立屋」でせんべろセット。たぬき豆腐とビールを注文。おそるおそる「市場界隈」のチラシを手渡すと、店員さんが「あ、読みましたよ」と店員さんが言う。10月に訪れたときに名刺を渡していたのだが、それで名前を検索し、連載を読んでくれたのだという。取材させてもらいたい旨を伝えると、「ちょうど今日は店長がいますよ」と言って、紹介してくれる。ビールを3杯飲んでおいとまして、続けて「肉バル 透」でハイボール。こちらでもチラシを手渡し、追加で取材させてもらいたい旨を伝える。こちらも引き受けてもらえそうで、ほくほくした気持ちになる。3軒目となる「信」では僕が口開けの客だ。生ビールを注文すると、泡しか出てこず、「おかしいね」と言いながらお父さんは泡をジョッキに注ぎ続ける。グラスが次々に使われて、「あの、ハイボールでも大丈夫です」と伝えたが、お父さんは粘り強く作業を続けてビールを出してくれた。もう7杯飲んでいるが、それでも安里まで歩き、犬を眺め、「うりずん」で白百合を飲んで、犬を眺めて帰途につく。知人から「そんなに毎日顔を合わせてたら、さすがにもういらえるやろ」と言われたが、まだ一度も触れていないし、触れるつもりもない。