2月9日

 6時過ぎに目が覚める。すぐに郵便受けに向かって、届いていた朝日新聞の朝刊を手に取る。先日受けた著者インタビューが掲載されている。こういうふうにまとまったのかとしみじみ読んだ。記者の方に「真面目」と評されたのが照れくさく、「僕のことを知っている人は、真面目とは思わないと思います。たぶんきっと、いつもお酒を飲んでいる人だって答えると思います」と返していたのだが、その言葉も掲載されている。この記事は親や祖母も読むだろうから、もっとええかっこしておけばよかったかなとも思う。しかし、こうして著者インタビューが掲載されれば、書店での取り扱いも少しは改善されるだろうか。

 なんとか二度寝しようと試みるも、あまり深くは眠れなかった。今日も少し虫刺されのような跡ができている。起きてきて朝刊を見た知人は、澄ました顔で写真を撮られているのを見て大笑いする。11時過ぎ、知人と一緒にアパートを出る。雪の予報が出ていたけれど、あまり降っていなくてがっかりする。「砺波」に入り、瓶ビールと餃子を注文。それを平らげたところで、広東麺とチャーハン、それに瓶ビールを追加する。食べ終えたところで店を出て、「平澤剛生花店」へ。平澤さんにご挨拶して、一緒に営業している「ベーカリーミウラ」でピザとビールを注文。ビールを飲み干したところで、せっかくだからと知人も一輪花を買っていた。「ラフィーラ」(アンスリューム)という銘柄の花らしかった。「いいセンスしてますね」と平澤さんに言われていて、少し羨ましくなる。

 アパートに戻ると、少しだけ昼寝をした。そんなに深くは眠れず、今日のトークイベントでどんな話をしようかと考えを巡らす。17時半にアパートを出て、小田急線直通の千代田線に乗り、下北沢へ。今日は『ドライブイン探訪』刊行記念トークイベントだ。セブンイレブンで赤飯おにぎりを買って、「B&B」。入口へと続く階段には人が列をなしている。地下二階のライブハウスで何かイベントでもあるのだろう。しかし、それにしては本を読んで待っている人が多い気がする。「B&B」に入ると、「よろしくお願いします」と店員さんたちが出迎えてくれる。「今日は寒いですし、もうすでにたくさんお客さんがお並びくださっているので、早めに開場してもよいですか?」と尋ねられ、そうか、今のは今日のイベントに来てくださるお客さんたちだったのかと遅ればせながら気づく。

 ほどなくして開場となる。お飲物を何かお持ちしましょうかと店員さんが言ってくれたけれど、もう少し考えますと伝える。赤飯おにぎりを食べていると、ゲストに出演しただく芸人のM.Nさんがいらっしゃる。お久しぶりですとご挨拶。すみません、ビールを飲んでもいいですかと確認した上で、ビールを飲み始める。19時5分、トークイベントが始まる。前の店舗でトークをしたことはあるけれど、今の店舗に移転してからは初めてだ。今日は貸切なので、キャパは105席だ。そのチケットが完売しているので、かなりのお客さんが来てくれている。そして、Mさんには10年前から何度か取材してきたけれど、トークというのは初めてなので、不思議な感じがする。途中で10分の休憩を挟んだのち、20時50分に終了。楽屋に戻り、「あっという間でしたね」と言葉を交わす。終演後はサイン会が行われた。基本的に皆さん又吉さんのサインに並ぶのだろうと、僕はビールを手にテーブルまで戻ったのだけれども、僕に「サインを」とおっしゃる方も思った以上にいて、びっくりする。

 終演後、芸人のMさんや、トークイベントを聞きに来てくれていた――そして来週金曜に「Title」で一緒にトークをしていただく――編集者のM.Hさん、同じくトークを聴きにきてくれていた友人のA.Iさん、それに「B&B」の方と一緒にごはんを食べに行くことになる。どこに入るか決めかねたまま歩いていると、「ここはどうですかね?」と芸人のMさんが立ちどまる。地下に「狸亭」というお店があるらしかった。メニューを見ると「ハイボール199円」とある。この値段の店だと客に絡まれてしまうのではと少し心配になったけれど、階段を降りてゆくと女性3人組のお客さんがいるだけで、静かに飲めそうだ。それぞれ飲み物を注文したあとで、食べ物をどうするか考える。お互いに気を遣いあってなかなか決められなかったけれど、キムチ鍋を注文した。

 「今日のトーク、すごく面白かったよ」。編集者のMさんがそう言ってくれる。「ちゃんと対談になってたし、M君の話も引き出しつつ、『ドライブイン探訪』の話もしっかりしてたし、すごい面白かった」と。編集者のMさんは、僕にとって兄貴分のような存在だと思っているので、嬉しい。ハイボールを飲みながら、Mさんが連載中の小説の構想を聞いたり、楽しく過ごす。2時間ほどで店を出て、小田急線で帰途につく。Aさんが「もう少し飲んでいきませんか」と誘ってくれたので、水道橋に出て、今日の打ち上げで少し話題に上がった「鳥貴族」に入り、お湯割を飲んだ。あれこれ話していると、「今日、(編集者の)Y.Mさんと話してて、なんで橋本さんはあんなに優しいのかって話になってん」とAさんは言う。「そしたら、橋本さんは『幸福な王子』のツバメなんじゃないかってYさんが言ってた」と。宝石を届ける話だということは覚えているけれど、一体どんな話だったか、思い出せない。話は尽きないが、早起きしたせいで眠く、「続きはまた明日話しましょう」と告げて3時過ぎに店を出る。外に出るとものすごい寒さだ。こんな日に限ってマフラーを忘れている。Aさんは歩いて帰るというので、話しながら歩く。僕が片方しか手袋をしていないことにAさんが気づく。「こんな寒いんだから、すぐ買いなよ。軍手でもいいから、手袋したほうがいいよ」とAさん。春日の交差点で別れ、寒さに震えながらアパートまで歩く。