8月27日

 8時過ぎ、蝉が窓枠にとまって鳴き始めて目が覚める。昨晩はもう秋になったような気持ちでいたけれど、まだ8月である。朝はぐずぐず過ごしてしまって、正午、昨日茹でるだけ茹でた茹で玉子を食す。午後、昨日のテープ起こしに取りかかっていると、部屋のベルが鳴る。東京ガスの職員で、ガス代が未払いだという。すみません、ちょっと手持ちがなくてと伝えると、郵便受けに伝票を入れておくので、すぐに支払うようにと言われる。財布を持って出かけ、支払期限の古いほうをセブンイレブンで支払う。

 昼は納豆オクラ豆腐そばを作って食べて、昨日の取材のテープ起こしに取りかかる。あまり捗らず、17時過ぎにアパートを出る。缶ビールを買って山手線に乗り、上野駅YouTubeZAZEN BOYS「amayadori」のライブ音源を聴きながら歩く。今にも雨が降りそうな天気だ。一曲聴き終えたところで「北畔」に入ると、テーブル席に文筆家のK.Yさんの姿が見える。今日はKさんに誘ってもらって、ふたりで飲む約束をしていたのだ。

 まずは瓶ビールを注文して乾杯。ナスの揚げ浸しやいぶりがっこをツマミつつ、近況を話す。前にお会いしたのは昨年の秋なので、ほとんど一年ぶりだ。今日このお店を予約してくれたのはKさんで、僕がこれから取材したいと思っているテーマに合わせてここを選んでくれたのである。そのテーマに関する本が過去に出版されていたことも教えてくれた。それを知らずに取材を始めてしまうと、なんだか後追い企画みたいになってしまうところだったので――『不忍界隈』を出したぶん余計にそうなってしまう――教えてもらえてよかった。

 途中でKさんは焼酎の水割りに、僕は日本酒に切り替えて、しばらく飲んだ。いずれも青森のお酒だ。せっかくだからもう一軒ということで、根津まで歩く。話しながら不忍池のほとりを歩いているうちに弁天堂の前に出て、ライトアップされた姿が目に飛び込んできて、その美しさにハッとさせられたが、何事もなかったかのように話を続けた。話しながら、柴崎友香『待ち遠しい』には3世代の女性が登場し、旅行に対する距離感がそれぞれ違っていたことを思い出す。バー「H」にたどり着き、扉を開けるとカウンターは埋まっている。大盛況だ。

 テーブル席に通してもらって、ハイボールをいただく。『市場界隈』の話になり、註をつけようとは思わなかったのかとKさんに訊ねられる。沖縄の言葉が登場するところに註をつけるかどうか、原稿を書くときに少し迷ったところだ。編集のTさんは、そのフレーズの後ろに括弧で括る形で註を入れる形でゲラを作ってくれたのだけれども、それだと文章を読んだときのグルーブが下がる気がして、なんとなくニュアンスでわかる範囲で原稿をまとめることにしたのである。もう一つ、沖縄を特殊な事例のように扱わないということも考えながら取材していたので、註をつけるのを避けたということもある。でも、Kさんと話していると、それは僕が書き手として勝手に「そういう原稿にまとめたい」と思っていただけのことで、読者が「もっと知りたい」という気持ちを重んじてなかったのではと思えてきて、少し反省する。一年前にバー「H」でKさんと飲んだときも、『不忍界隈』に関して鋭い指摘をされたことを思い出す。そんなふうに読んでくださる方がいるというのは、とても貴重なことだ。

 この日話したことを書き出していくと膨大な量になるので、いつか改めて書く。