9月3日

 7時に起きて、昨日送ってもらったプルーフをひたすら読み進める。新聞連載のときに読んでいたけれど、取材に向けて気になる箇所に付箋を貼ったり、紙にメモを記したりする。昼、セブンイレブンで味噌ラーメンを買ってきて食す。15時前にアパートを出て、まずは横浜に出かけ、対談の取材。取材させていただいた方ではないけれど、選手がトレーニングしていて、その動きに惚れ惚れする。対談が終わる頃には日が暮れていて、外に出ると土砂降りだ。靴を水没させつつ横浜駅に出て、東急東横線に乗り、九段下を目指す。なんとか座ることができて、パソコンを広げ、質問リストをまとめてゆく。

 19時50分に九段下に到着し、20時20分、『TB.』誌の取材が始まる。写真撮影ののち、M.Nさんに新作について話を伺う。いつまでも話していたいと思ってしまうけれど、時間は有限だ。インタビューの直前に、編集者のOさんはスマートフォンを見ながらメモを書き、「21:15まで」と書かれた紙を渡してくれたけど、どうも「21:15まで」という感じではなく、21時10分にはインタビューを終える。現場に同席していたUさんは、畏怖する気持ちを持っている編集者のひとりで、「良いインタビューでした」と言ってくれたけど、本当に大丈夫だっただろうかとそわそわした気持ちのままビルをあとにする。

 取材後、せっかくだからと、Oさんと飲みに出る。とりあえず飯田橋方面に向けて歩いていると、がらんとした居酒屋を見かける。扉は開け放たれており、入り口の近く、通路に椅子を置き、高齢の女性が店の外を眺めている。ふと目があって、はい、お兄ちゃんたち、どうぞ、と声をかけられる。そのまま少しだけ通り過ぎて、外に置かれた看板を確認すると、枝豆280円という文字が目に留まる。この値段なら手頃だろうと、入店を決める。

 店内は思ったよりも広く、30人以上は入れそうな広さだ。高齢の店主と、調理担当なのであろう男性とで切り盛りしているようだ。枝豆280円、冷奴180円と書かれてあり、全体的に低価格であるかのように錯覚していたけれど、焼き鳥(3本)690円と書かれている。ハイボールが300円であるのにコカコーラが340円であるなど、不思議な価格設定である。店主が何度も薦めてくるので、鶏の唐揚げを注文したのだが、運ばれてきた唐揚げを見て、マジかよ、冷凍食品じゃん、とOさんはうなだれている。

 この店で飲んだだけでは帰れないとOさんは残念そうだ。Oさんは神楽坂在住だという人と連絡をとって、合流し、1階には8人がけのカウンターがあるだけの中華料理店に流れる。チューハイで乾杯し、ライターとして、編集としてこれからどうするのかを語りつつ、杯を重ねる。Oさんから「橋本君は厭世的だけど」と言われ、意外に思う。他人からはそう見えているのか。その言葉があんまり意外だったので、後日辞書を引いた。そこには「人生に絶望し、世をはかなむ傾向にあるさま」と書かれていた。それはともかく、この日はテレビの話もたくさんできて楽しかった。終電で帰るつもりでいたけれど、途中で話を打ち切るのもためらわれて、1時半まで飲み続けた。会計は2軒ともOさんが払ってくれた。

 知人はもう眠ってしまっているだろう。そう思いながらもメッセージを送ると、まだ起きているらしかった。公演初日が近づいており、知人は明日から横浜に宿泊するので、しばらく会えなくなる。今日のうちに酒を飲んでおこうと、ビールを4本買ってタクシーに乗り、深夜2時に乾杯する。