9月19日

 7時過ぎに目を覚ます。シャワーを浴びて荷物の整理をして、8時に朝食会場に行ってみる。入場待ちをしているお客さんがおり、待っていたら待ち合わせの時間に遅れてしまいそうなので、朝食はあきらめる。自分がいつも地方都市で宿泊するホテルよりも少し良いホテルだったので、朝食を食べられず残念だ。8時半に放送局の前に行き、ロケに出る。途中で、ロケとは別に、山口の「長沢ガーデン」に立ち寄る。知人の実家にほど近い場所にあるドライブインだ。入り口には「板さんの店」と看板が出ており、釜飯や刺身定食などサンプルが並んでいる。一階はお土産物が並び、二階が大食堂になっているようである。

 それとは別に、軒先に売店があり、フライドポテトやたこ焼きを売っている。知人は小さい頃から家族で出かけるときによく「長沢ガーデン」の前を通りかかり、フライドポテトを食べていたという。せっかくだから注文してみると、売店のおばちゃんがポテトをフライヤーに入れる。わざわざ揚げたてを作ってくれるのかと驚く。出来上がったフライドポテトは、懐かしい味がする。僕が隣町にあるショッピングセンターのフードコートで食べていたのも、こんな味のするフライドポテトだった。一体何が違っているのだろう。車内にポテトの匂いが充満しないように、急いで食べる。ドライブインを出発すると、再び湖が見えてきて、その向こうに打ちっぱなしがあった。平日の昼間だというのに、たくさんの人がゴルフに興じている。

 12時過ぎからロケ。店主が落ち着いたところでインタビューを始めたのだが、いくつか質問して、ギアが入ったところで一度中断される。それはセッティングの問題だから仕方がないけれど、インタビューを再開していると、少し質問したところで再び中断され、ディレクターがインタビュアーになり、僕はそれを後ろから聞く時間になる。しばらくして、再び僕が聞き手になるも、またすぐに中断され、再び後ろから聞くことになる。僕が聞いた質問を繰り返してもいて、これは一体、何を見せられているのだろう。インタビューを僕がやらないとなると、僕の仕事は店の外観や内観を解説し、食べ物を食べる――タレントやアナウンサーの仕事である。本の宣伝になるのであればとあれこれ引き受けてきたけれど、今後は自分が取材する案件以外は断ろうと心に決める。そして、やはり、欲しいコメントを促す質問に違和感をおぼえる。

 役目を終えて、店内を眺めて過ごす。トラック運転手のお父さんがやってきて、まずは小鉢を選んで席につき、二階堂のボトルを運んできてもらって晩酌を始めている。その後ろ姿を眺めながら、僕も二階堂の水割りを注文する。グラス、焼酎の入ったガラス製の徳利、氷入れ、水の入った小さなやかんが運ばれてくる。お父さんは野菜が3倍、麺が1.5倍の「ましましチャンポン」を頼んで、タオルを鉢巻のように巻き、コショウをたっぷり振って食べ始める。左利きだ。食レポの影響でわりとお腹は満ちているけれど、僕もましましちゃんぽんを注文し、スープまで飲み干した。窓の外には綺麗な夕焼けが見えた。こんなに綺麗な夕焼けが見えたのだからいい一日だったと思うことにする。

 手配してくださっていたタクシーに乗り、空港に向かう。運転手さんが、今見えているのは宇部興産の工場です、ここが宇部興産の本社です、となぜか案内してくれる。山口県には工業地帯が続いており、小野田であれば小野田セメントの城下町であるように、ここは宇部興産の城下町であるらしかった。その風景を眺めながら、「企業城下町をあるく」的な企画をやってみてはどうだろうと思い浮かべる。かつて存在した古き良き時代と、移り変わりつつある今と、それでも残る面影と――そこまで妄想したところで、こういうことばかり考えているから「コメントの中で昭和というキーワードを出していただければ」と言われるのだなと思う。そして、そんな企画を思い浮かべたのは、Kさんから太田とスバルについて触れていた記憶が残っているからでもある。

 飛行機で羽田空港にたどり着き、22時45分、知人と根津駅で待ち合わせる。バー「H」に入り、ハイボールを1杯だけ飲んで、気持ちを落ち着かせてからアパートに帰った。