3月3日

 7時に起きて、コーヒーを淹れ、テープ起こしをする。2週間前の取材のテープだ。知人を起こしてシャワーを浴びて、たまごを6個茹でる。そのうちの2個を食べる。知人を見送って、洗濯物を干す。引き続き、テープ起こしを進める。お昼頃になって近くのスーパーに行く。お米は普通に並んでいる。他のスーパーだと、この時期でもオクラを売っているけれど、ここは季節のものしか扱っていない。ずっと前に『PON!』で、夏を乗り切るためのメニューとして、オクラと豆腐と納豆を混ぜたそばが紹介されているのを見て以来、あれを食べていれば健康でいられると思い込んでいる。でも、ここではオクラが買えないので、何かないかと見渡したところ、しょうがが目に留まる。そばを茹でて、豆腐と納豆を混ぜたものをのっけて、その上に生姜をすり下ろして食べる。生姜の味しかしなかった。

 午後もテープ起こしを続ける。14時過ぎにようやく終える。さっそくプリントアウトして、どんなふうに原稿にしようかと考える。そうしているうちに16時になり、急いで支度をしてアパートを出る。まずは「往来堂書店」をのぞいて、なにか書評にうってつけの本がないかと探ったのち、千代田線で大手町に出る。16時45分、Y新聞社に到着する。読書委員会は17時くらいから始まるのだが、今回は事前にリクエストした本がないので、早めに着いて本を選びたかったのだ。じっくり選んで、3冊持ち帰る。昨今の状況を鑑みて、社としては会合などに弁当を提供することを控える方針であるらしく、今日はお弁当はナシ。途中でそっと会議室を抜けて、赤飯にぎりを急いで頬張る。20時過ぎに会は終わった。

 いつもは神保町で懇親会があるのだが、こちらも中止となった。今日は電車で帰られた委員の方も多いようで、ひとりきりでハイヤーに乗ることになった。せっかくなのでまっすぐ帰るのではなく、新宿までお願いしますと伝える。いつも口座の残高を睨むように眺めて、「ほんとうに今月も乗り切れるだろうか」と心配しながら過ごしている人間が、ひとりきりでハイヤーに乗るなんて。そんな状況を笑う気にもなれなかった。皇居のまわりをジョギングしている人たちをたくさん見かける。

 新宿3丁目「F」でハーパーのソーダ割を、ソーダ2本ぶん飲んだ。そののち、新宿5丁目「N」へ。僕の左隣にはどっかと鞄が置かれていた。ボックス席に座るお客さんが、お腹減ったとリクエストすると、お店のKさんが少し戸惑った様子だ。どうしたのだろう、いつもはすぐ近くにある「Y寿司」で巻き寿司をテイクアウトするところなのにと思っていると、「最近、『Y寿司』が閉まるの早くなっちゃったのよ」とKさんが教えてくれた。

 そんなふうに食べ物をリクエストしている様子を見て、僕の左隣に鞄を置いている客が、「なに、あそこのお客さんたち、VIPなわけ?」と興味津々な様子で聞いている。さらに、「今度ギターを持ってくるよ、このお店はきっと、ギターがあると喜ぶ人が多いんでしょ」と言い出す。むかむかするが、そうして怒りが湧いてくるとき、どこかで坪内さんを真似ているように思える。僕の右隣には、よくみるお客さんたちが座っている。ほとんど言葉は交わさなかったけれど、僕が会計を済ませて店を出ようとすると会釈をされて、慌てて会釈を返す。