3月25日

 8時半に起きて、いそいそと炊飯し、洗濯機をまわす。たまごかけごはんに納豆を入れて平らげて、9時半過ぎに慌ただしくアパートを出る。千代田線で西日暮里に出て、京浜東北線埼京線を乗り継いで与野本町に出る。電車はどれもがらがらだ。駅の売店に並ぶ新聞には「東京五輪延期」の見出しが並んでいる。今朝はめずらしくテレビを見なかったから、延期が正式に決まったことを知らなかった。ここ数日のあいだに、はりぼてがバリバリと解体されていくようで、そのめまぐるしさに追いつけずにいる。スポーツ新聞の見出しには「志村」の文字が並ぶ。

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 駅前のファミリーマートで冷やしたぬきうどんとおにぎり二個セットを買い求めて、RIP SLYMEの「Dandelion」を聴きながら劇場まで歩く。上京した日はRIP SLYMEの「FUNKASTIC」というシングルがリリースされる前日で、上京してすぐにどこかのレコードショップに立ち寄ったことをおぼえている。そこにはまだ陳列されていなくて、もどかしく感じたことを思い出す。ということはつまり、僕が上京した日は2002年3月26日だ。劇場にたどり着き、入り口に設置された消毒用アルコールで手をこすり、稽古場でオーディションを見学する。

 最終組のオーディションにはI.Kさんがいた。Iさんは廊下にたたずむ僕に挨拶をして、稽古場に入ろうとする。そこから僕のほうに引き返してきて、「橋本さん、元気かな」と言う。「いろいろ延期になっちゃって、演劇とかライブとか、元気じゃなくなっちゃう人もいるけど、橋本さんは元気かなと思って」。そう言われた言葉が妙に残る。橋本さん元気ですかとは言わず、橋本さん元気かなとIさんは言っていた。

 21時に劇場をあとにして、3人で「かさぎや」に入る。店は賑わっていた。「かさぎや」に向かう道すがら、都知事が外出自粛要請を出したのだと知る。今週末は取材を兼ねたイベントをするつもりだったけれど、「イベントを開催します」と宣言できる状況ではなくなりそうだ。あとからA.IさんとK.Mさんも合流して、ふたりはごはんセットを注文し、チキン南蛮をおかずにごはんを食べている。23時に店を出る。電車に乗るまえに改札近くのスーパーに駆け込んで、缶ビールを3本買い込んだ。Fさんは前に比べると控えめに酒を飲むようになった気がする。自分だけ取り残されて、酔いどれているような気持ちになる。