4月2日

 8時過ぎに目を覚ます。コーヒーを淹れて、たまごかけごはん。10時過ぎ、第一牧志公設市場の組合長であるAさんに電話して、解体工事の進捗状況を伺う。かなり工事は進んでおり、4月30日までの工期に収まりそうとのこと。ただし、新市場の建設工事については、まだ入札者が出ておらず、工事の目処が立っていないそうだ。僕は「地鎮祭の様子を取材できないか」とタイミングを伺っているのだけれど、それは7月頃になるかもとAさんは言う。ついでに先日の官房長官の沖縄入りの話をする。国際通りの土産物店は視察していたようだけど、仮設市場にはきたんですかと尋ねてみると、「いや、急遽の視察だったみたいだから、こっちには見えなかったですね」とAさん。

 正午頃になって近所の八百屋に出かける。店頭でオクラと巨大な春キャベツを手にとる。安い豚バラ肉があるので、夜は回鍋肉にしようと決めて、回鍋肉の素と一緒に買う。お昼に納豆オクラ豆腐そばを平らげて、アパートを出る。近くのマンションの駐輪場では自転車が根こそぎ倒れている。セブンイレブンの前に、虫取り網と小さなバケツを持ったこどもたちがいる。千代田線で西日暮里に出て、山手線に乗り換える。一番後ろの車両に乗り込んで、端っこの席が空いていたので座ったものの、駒込あたりで隣に別の乗客が座ると、つい席を立ってしまう。過敏だとはわかっているけれど、反射的に立ってしまう。

 14時少し前に高田馬場駅。よく見かけるホームレスのおじさんが、道端にいつも持ち歩いている毛布を置き、セブンイレブンに入っていく。パチンコ店の前には女性がいて、客を呼び込むでもなく立っている。何のために立っているのかと思ってよく見ると、消毒スプレーを手にしていた。14時、美容院へ。髪が伸びてきて、そろそろ鬱陶しくなってきていた。美容院という空間にとどまることは少し躊躇われたけれど、今のうちに切っておかなければ、出かけられなくなるかもしれない。それで今日のうちにと切りにきたのだ。

 美容院の扉は開けっぱなしになっている。外から風が吹き込んでくる。まずは髪を洗われて、席に戻ると、いつも切ってくれている女性は別の客にかかっているところだ。それとは別の客が僕の隣に座っており、髪を染められながら、ずっと話し込んでいる。カッパみたいなアレをかけられた状態のまま、店の外に出て、「準備が整ったら呼んでください」と言おうかと頭の中で考えてみたけれど、そんな態度を取ってしまったら、もうここにはきづらくなるだろう。野口冨士男の『わが荷風』を読みながら5分ほど待っていると、「橋本さん、お待たせしました」と言われて、無言でうなずく。そのまま無言で切ってもらう。

 15時に美容院を出て、新目白通りに抜け、前に暮らしていたアパートを見上げながら明治通りに出る。坂を上がっていくと陸橋が見えてくる。別にどうという風景でもなく、何度となく目にした風景であるのに、まぶしく見える。日が少し傾いてきて、風景がちょっとだけ黄色く輝いて見える。なんだか久しぶりに外に出たような気持ちになるけれど、それは「久しぶりにこの坂を上がった」ことが生んだ感慨なのだろう。それにしても雲ひとつない素晴らしい天気だ。

 「古書往来座」をのぞいたのち、池袋東口にあるユニクロに出る。こないだの土曜日にこけたとき、ズボンの右膝に穴が空いてしまっていた。ずうっと履き続けてきたせいで繊維が薄くなっていたところに、こけた衝撃で脆くなっていたのか、帰り道にしゃがみこんだところで股まで裂けてしまっていた。これで長ズボンは1着しかなくなってしまったので、同じものを買いにきたのだ。ずっと同じユニクロのチノパンを履いているのだが、棚にそれが見当たらず、「感動パンツ」とかいう名前のズボンを買い求める。ついでに無印良品にも立ち寄り、切らしていた化粧水を2本と、こちらはまだ残りがあるけど乳液を1本買っておく。

 山手線で日暮里まで帰ってくる。久しぶりで「越後屋本店」に寄り、アサヒスーパードライを飲んだ。客足に影響が出ているのか、いつもに比べると「椅子」(ビールケース)の並べ方がゆったりしている。ほんと、「いつまで」ってわからないから困っちゃうわよねえとお母さんがこぼす。帰りにスーパーにも立ち寄り、黒霧島の2Lパック、トリスウィスキー、ササニシキ5キロを抱えて帰途につく。指がちぎれそうになるので、米袋は肩に担ぐ。団子坂を上がっていると、新聞が舞っており、配達員が回収しようと駆け下りてくる。

 夜、かぼちゃの煮物を作っているうちに知人が帰ってくる。回鍋肉づくりは彼女に任せ、『わが荷風』を少しだけ読み進める。20時15分から晩酌。来週後半に大阪の取材が入ったけれど、どうなるだろう。でも、どうせ行くなら1泊2日で駆け足に移動するより、スケジュールに余裕を持たせて2泊3日としたほうが、混雑を避けて移動できるし、身体への負荷も少ない気がする。それに、先日の半日店長のときに「青いカバ」で配布した、「貝殻」と題した文章が掲載されたリーフレットを、お礼もかねてHさんとEさんにそれぞれ渡しておくべきでは――いやいや今は誰かと会う約束をする時期でもないか――そんなことをぶつくさ言っていると、「そもそもこの状況で大阪まで移動するなんてどうかしてる」と知人が言う。いやいや、あなただって毎日会社に行ってるでしょう、会社まで往復15分はバスに揺られていて、それを毎日重ねてるのと、がらがらの新幹線で移動するのと、どちらがリスクがあるんでしょうね――そんなようなことを、もっと荒っぽい言葉で言い返す。