4月8日

 8時に起きる。コーヒー豆が切れてしまったので、坪内さんのお通夜でいただいた1杯用のドリップコーヒーを淹れる。今日が最後の1杯だ。シャワーを浴びたあと、汗が引くまで服を着ないままコーヒーを淹れて、キース・ジャレットを聴きながら琉球新報に目を通していると、起きてきた知人が「スタバに丸裸がおる」と笑う。ごはんを解凍して、たまごかけごはんを食べる。11時過ぎに自転車で出かける。近くの小学校のグラウンドは静まり返っている。桜が花を散らしている。春爛漫だ。

 自転車をこいでいると、どこにだって行けるのだという気持ちになってくる。前からずっと持っていたけれど、今のアパートには駐輪場がなく、雨ざらしになってしまうので玄関前(2階)に置いている。自転車を上げ下げするのが億劫で、最近は乗る機会が少なくなっていた。新しい乗り物を手に入れると爽快感がある。ポケモンで自転車を手に入れたとき、ドラクエで船や飛行船を手に入れたときの気持ちを思い出す。最近は電車に乗ってばかりで、移動する気が失せかけていたけれど、これがあれば(天気さえよければ)どこにだって行ける。

 まずは「往来堂書店」へ。扉は開けっぱなしになっている。入ってすぐの棚に文芸誌が並んでいる。昨日買わなかった『文藝』も手に取り、数冊の書籍と一緒に買い求める。文庫棚の売り上げ1位の枠は空になっていて、そこには「本日『ペスト』の入荷はありません」と貼り紙がある。これは洒落として貼り出されているのか、判断に少し迷う。「やなか珈琲」に立ち寄り、昨日注文しておいた豆300グラムを買う。あとから常連とおぼしき客がやってきて、僕越しに店員さんと会話を始める。この状況を抜きに考えてもムッとしてしまうけれど、どうしてマスクもせずにそんな大声でしゃべるのかと思ってしまう。「俺、自粛とかするタチじゃないからさ」とその客は笑っていた。

 団子坂を上がり、本郷通りを折れて、「青いカバ」。ここも扉は開けっぱなしにしてある。今後の資料となりそうな本を何冊か買っておく。仕事に影響は出てますかと尋ねられて、取材は全部なくなりましたけど、読書委員があるから、家賃はなんとか払えそうですと答える。そう答えた直後に後ろめたさを感じる。

 後ろめたさ?

 「青いカバ」には何人かお客さんの姿があった。近所の様子もいつもと変わるところがなく、緊急事態宣言が出たとはいえ、昨日と今日とで何も変わっていないように思える。しかし、今日から図書館が完全に閉まってしまった。これは原稿を書く上でとてつもなく痛手だ。調べ物も制限されるし、読んでいた本に出てきた引用箇所を調べようにも、原点に当れなくなってしまう。帰りにスーパーに寄る。レジには「感染防止のため、1.5メートル離れてお並びください」と貼り紙が出されており、それにしたがって並んでいると、後ろに並んでいた高齢者にカゴでグイグイ押され、睨み返す。

 先月沖縄に出かけたときのことをそろそろ書かねばならず、まずはテープ起こしをしなければならないのだが、昨日原稿を書き上げた余韻があり、仕事に取りかかる気になれなかった。ちょろちょろっとやって、昼寝して、魔法瓶からカップにコーヒーを注いで飲んで、ちょろちょろっとテープ起こしをやっているうちに日が傾いてくる。ゴールデンウィーク前の書評欄は特別編成となるらしく、取り上げる本を10日までに連絡して欲しいと言われていたことを思い出し、この本でお願いします、とメールを送っておく。

 こんにゃくの炒め物と、コールスローを拵える。コールスローとは何と完璧なツマミだろう。こんなに簡単に作れて、飲みながらチビチビ食べるのに適している。最後に麻婆豆腐を作り、19時、知人と一緒に晩酌を始める。今日は『有吉の壁』のレギュラー放送が始まる日だ。ほぼリアルタイムで追いかけ再生をしながら、2時間笑いっぱなし。久しぶりに愉快な気持ち。