4月15日

 8時過ぎに起きて、コーヒーを淹れる。知人から「これ、出せるんやないん」と送られてきていた持続化給付金のページに飛んで、読み返す。どこか特定の1ヶ月を選び、昨年の売り上げと今年の売り上げを比較してよいのであれば、確実に半減している月はある。それをもとに計算すれば、確実に給付金を(それも上限額の100万円を)もらえるだろう。でも、ほんとうにもらえるのか、もらってよいのかと考えてしまう。国がくれる金なんかという気持ちもどこかにあるし、百姓として生きてきた先祖の何かが残っているのか、お金をもらうだなんてという気持ちもどこかにある。しかし、そもそもフリーランスの人間であれば月によって収入は開きがあるはずだから、これは皆がもらえるのではないか。100万円か。「事業の継続を下支えし、再起の糧」とするために給付されるのだという。昨日触ったカメラやらで使い切ることばかり考えてしまう。

 午前中はメールの返信をする。そのメールが届いたのは「5日前」と表示されており、申し訳なくなる。そのメールは『cw』誌のTさんからで、次回の取材に関する相談だった。ゴールデンウィーク明けに、とあり、うまく返信できずにいた。「こんな時期に取材なんてとんでもない」という考えをもっているわけではまったくないのだけれど、とにかく移動することに不安がある。飛行機はきっと不安を感じることはないだろう(今日、あらためてジェットスターのサイトを確認し、5月に入ってからの便を確認してみると、窓側と通路側の席は販売されているけれど、あいだの席は販売されていないようで、窓側と通路側に関しても6席くらいしか予約が入っていなかった)。でも、たとえば朝10時の便だと、空港に向かう途中に混み合った電車に乗ることになる。それは不安だ。また、タイトなスケジュールになると余裕がなくなり、人混みを避けたり、こまめに手洗いをしたりとはいかないだろう。なので、取材はぜひにと思っているけれど、その日程が決まったあとでフライトに関して相談できればと返事を書く。ほどなくして返信があり、「橋本さんのおっしゃること、よくわかります」と言っていただけて、あらためて相談することになった。

 昼、納豆オクラ豆腐そばを食す。午後は『AMKR手帖』の原稿を少しずつ書く。原稿を10行くらい書くと、ソファに寝転がり、アプリでマリオカートをやる。また机に戻って原稿を書き、と繰り返す。今回の原稿には今の自分の心情を丁寧に入れなければならないだろうと、そう依頼があったわけでもないのに思い込んでいて、それを言葉にするには一息ではうまくいきそうにないのだ――と言い訳しながら、マリオカートをやる。こういう状況になると、ゲームがやりたくなる。2011年の春はファイナルファンタジーをやり、それをクリアすると、『名門ポケット学院』という、学校を運営するシミュレーションゲームばかりやっていた。そういうのをやりだすと止まらなくなるから、ほどほどで飽きそうなマリオカートを選んだ。

 17時、最後まで書き終える。すぐには送らず、電話でコーヒー豆の焙煎を注文してから散歩に出る。「往来堂書店」に行き、『東京凸凹地形散歩』を資料として買い求めておく。店長のOさんに、店頭にある『ユリイカ』を持って行き、「原稿のここ、ここに『往来堂書店』と書かせてもらいました」と伝えようかとも思ったけれど、自分の原稿でそんなことをするのは無粋極まりなく、また今日はマスクをつけてこなかったので、言葉を交わさず店を出る。「やなか珈琲」でコーヒー豆を受け取り、「越後屋本店」でアサヒスーパードライを買って、飲みながら歩く。今晩のおかずはどうしようかと考えていたところで「小奈や」の前を通りかかり、山芋焼をテイクアウトで注文する。いつも通りとはほど遠いけれど、なんとか日々を続けようと、こうして散歩している。

 帰り道、LINEの画面を眺めながら、こうして散歩しているのは正しいことなのだろうかと考える。営業している店があるのなら、できる範囲で足を運ぼうと思っているけれど、そうして通ってくる客の存在が休業に踏み切れなくさせている可能性も捨てきれない。しかし、店を休業するという決断は、すでに休業に入っている店主にとっても、まだ営業を続けている店主にとっても、大変なことだろう。一時停止するというのは大変なことだ。数週間足を運ばなくなった場所に、わたしたちはまた足を運ぶだろうか。自分が通っていたどこかのことを見落として、元通りになったつもりで暮らしてしまう可能性はないだろうか。『東京の古本屋』という取材を始めてからあらためて感じるのは、店はひとつの生き物のようでもあるということだ。それを閉じるか否かという判断を迫られるというのは大変なことだ。

 言葉にすれば、当たり前のことだけれども、そんなことを考えながら帰途につく。19時過ぎに買ってきた知人と晩酌をする。ツマミはこんにゃく炒めと、知人の作る塩豚炒め、それに「小奈や」の山芋焼である。『有吉の壁』を観たあと、『水曜日のダウンタウン』が始まるのを待つあいだに、原稿に直しを入れる。知人にカメラアシスタント(?)となってもらって、こないだ通販したリングライトを照らしながら、カラーブックスふうに写真を撮り、原稿と一緒に送信する。1時間と経たないうちに返信があり、「素晴らしい原稿、ありがとうございます」と書かれてある。もう酔っ払い始めていたのか、ケータイの画面を知人に見せて自慢する。知人は「ああそう」とだけ言う。オープニングテーマに合わせて今週も小躍りしながら、『水曜日のダウンタウン』を観始める。この二つの番組があるなんて、水曜日はなんて素晴らしいのだろう。