6月4日

 6時過ぎに目を覚ます。昨日も早い時間に眠ってしまった。コーヒーを淹れて、いつもより少し早く、8時には知人を起こす。J-WAVEをつけると、アメリカの国立衛生研究所が「日常会話が感染ルートになる」との研究結果を発表したと報じられている。知人を見送って洗濯機をまわし、洗濯物を干しにベランダに出てみると、隣の(元)酒屋さんご夫婦が枝を拾い集めているのが見えた。うちのベランダは(元)酒屋さんの裏庭に面していて、そこにはビワの木がある。それがぼくの部屋のベランダと同じくらいの高さまで育っていて、去年は酒を買いに行った折に高枝切りバサミを貸してくれて、知人と一緒にあくせくしながら新しく伸びてきた枝を切ったのだが、ご夫婦が切ってくれたらしかった。大丈夫かしら、これで日が当たるかしらと言うふたりに、さほど確認することもせず、大丈夫です、ありがとうございますと答える。

 昼は納豆オクラ豆腐そばを食べた。日記に書きそびれてしまったけれど、一昨日も同じものを食べた。その日は今年に入ってから初めて、「冷やし」の納豆オクラ豆腐そばを食べたのだった。今日も気温は高く、冷やしである。午後、寝転がったまま企画「R」に向けた読書をしていると、知人が早々に帰ってくる。これまでは事務所にひとりきりだったけど、今日は人数も多く、事務所でしかやれない仕事はやり終えたから在宅ワークにするのだという。ぼくは夕方まで読書をして、皿を持って「たこ忠」に出かけた。今日から営業再開だ。開店時刻の17時半ちょうどに店に着くと、もう何人か並んでいた。ほどなくして開店すると、先頭のお客さんが「予約した××です」と伝えている。きっと席数も減らしてあるだろうし、予約なしでは入れないかもなと思っていたけれど、カウンター席に座ることができた。ビールとつるむらさきのおひたし、吸盤の唐揚げを注文。それとは別に、初がつおと真だこの刺身をテイクアウト用に作ってもらう。ビールを飲み干すと日本酒の日高見をグラスで頼んだ。

 ぼくが案内されたのは5人がけのカウンター席で、ぼくが中央席に、先客が両端に座っていた。カウンターには「咳エチケット」の案内や、お客さん同士の距離を1〜2メートル空けて案内する旨が貼り出してある。だが、あとからやってきた常連とおぼしきお客さんは、ひとりはぼくの右隣、もうひとりはぼくの左隣に案内される。まあ、一人客だからしゃべるわけじゃないしなと思っていても、マスクを外して注文されると緊張してしまう。店員さんが「お持ち帰りの準備ができました」と案内してくれたところで、左隣のお客さんが「いやー、大変だったね! どれくらい閉めてたんだっけ?」と、カウンターの向こうにいるマスターに話しかける。閉めてたのは2ヶ月くらいでしたけど、閉めてからより、3月が大変でしたよとマスターが答える。「あー、そうだよねえ! 皆キャンセル、キャンセルしちゃうとねえ、せっかく仕入れたものが駄目になっちゃうもんなー!」と客が言う。これは駄目だと席を立ち、会計をお願いする。酒場が再開されたら、なるべくお金を払いに行かなければという使命感のようなものに駆られていたけれど、この三日間を振り返り、しばらく酒場に行くのは控えようと、帰り道にはっきり言葉で考えた。