6月18日

 9時、洗濯物を抱えてホテルを出る。浮島通りにあるコインランドリーに入ってみると、洗濯から乾燥まで、まとめてやってくれるマシンがある。いいじゃないかと値段を確認すると、洗濯+乾燥は「60分1200円」とある。1200円て。結局「金壺食堂」の近くにあるコインランドリーまで歩き、200円を投入して洗濯を始める。残り時間が「38分」と表示されたので、ケータイでタイマーを設定しておく。「上原パーラー」でじゅーしーおにぎり2個入り(150円)を、セブンイレブンでアイスコーヒーを買う。ここには除菌スプレーが置かれておらず、ポケットから自分のを取り出して擦り込んだ。浮島通りの電柱に、張り紙があることに気づく。通りの歩道にある花を模したブロックの柄が約2メートル感覚で配置されているので、そのぶん距離をとるようにと呼びかけたものだ。

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 パラソル通りでパソコンを広げ、日記を書く。次第に日差しの角度が変わってきて、首がじりじり焼かれる。タイマーが鳴ったところでパソコンを閉じて、コンランドリーに戻ると、まだ残り「3分」と表示されている。このタイプの洗濯機は、いつも時間がゆっくり進む。乾燥機に移し、200円入れて、再びパラソル通りで日記を書く。乾燥が終わり、ホテルに引き返すころにはもう汗をかいていて、今日2度目のシャワーを浴びる。洗濯機がないホテルは不便だ。残りの滞在日数を数えて、もう洗濯せずに済ませられないかと、持ってきたTシャツの数を数えてみる。Tシャツは替えがあるけれど、火曜日、帰京してそのまま読書委員会に参加しなければならず、そこに汗くさいズボンを履いていくわけにはいかないから、もう一回は洗濯する必要がありそうだ。

 昼は「上原パーラー」で買っておいたネパールカレーを食す。昼はホテルで原稿を書いて過ごす。16時半、界隈の様子を眺めに出る。仮設市場を覗くと、7割の店がもう閉まっている。界隈には少しだけ(ほんとに少しだけ)観光客が増えつつあるような感じがする。コンビニで新聞をコピーする。先日Uさんからもらった、「まちぐゎーひと巡り」が掲載された琉球新報。3月27日付のもので、一面トップには「知事 旅行自粛を要請」と見出しが打たれている。このコピー用紙を渡して取材依頼をしたかったけれど、お店が賑わっていたのであきらめる。「上原パーラー」で天ぷらを2個買って、引き返す。冷やしてあったオリオンビールを取り出し、開ける。オリオンビールはつい最近リニューアルされたらしく、今は新旧両方が店頭に並んでいるから、飲み比べてみることにする。コップに注ぎ、今後に飲んでみる。キンキンに冷えていて、ウマイという感想しか浮かんでこなかった。

 テレビをつける。RBCでは『Nスタ』が放送されていて、「明日から県をまたぐ移動が可能になるわけですが」と、パネルをつかって説明している。「バスツアーも“新様式”」「国内旅行“可能”に」という見出しとともに流れたVTRでは、「観光バスの換気能力テスト」の映像が流れる。外気を取り込むエアコンを設置することで、煙で真っ白になっていた車内が、5分ですっかり換気される映像だ。しかし、最初の3秒だけは通常の速度で再生され、そこから5分近くを早送りし、最後の数秒だけまた通常の速度で再生される。ニュース番組で5分まるごと流すことはできないのだろうけれど、再生速度が途中で変化するせいで、全体を早送りするよりもスピーディーに感じられる。今のは大丈夫なのかと思っているうちに、画面が切り替わり、官邸からの中継が始まる。総理大臣が記者会見をおこなうらしかった。

 画面には赤と黄色に彩られた大きなテロップが表示され、「速報」「県境越える移動“解禁”へ」と書かれている。会見の冒頭で総理大臣は、「先般改定した基本的対処方針にのっとり、明日、社会経済活動のレベルを、もう一段引き上げます。具体的には、都道府県をまたぐ移動については、一部の首都圏や、北海道のあいだも含めて、制限がなくなります」と語った。何を言っているんだお前は。お前はいつ「移動」を「制限」していたんだ。日本がロックダウンに踏み切れなかったのは、憲法二十二条が定める「移動の自由」に抵触することが大きかったはずだ。都市封鎖がおこなわれていたわけではなく、あくまで「自粛」を「要請」するという、おかしな日本語がまかりとおっていただけなのに、「制限がなくなります」とはどういうことだ。そして、その言葉遣いにメディアが違和感を表明することなく、「”解禁“へ」と報じる。大本営発表の時代と何が違うというのか。

 どうしても怒りがおさまらず、原稿を考えられそうにもないので、18時にホテルを出る。ロビーに何組かお客さんの姿があった。このホテルに滞在し始めてから、他のお客さんの姿を目にするのは初めてだ。「パーラー小やじ」の前を通りかかると、わりと空いていたので、カウンターに座って墨廼江を注文。席ごとに携帯用の除菌スプレーが置かれていたので、手に擦り込んでおく。ここはオープンエアーな酒場で、猫が通りかかる。それを見かけたお客さんが、「名前はあるんかな」と言う。「名前はないんじゃないですかね?」と店員さん。「じゃあ、小やじにしたら」とお客さんは笑う。のどかな時間が流れている。こどもたちの叫び声が響く。露地で遊びながら駆け回っていて、パンツ一丁の男の子の姿もあった。こんな風景、今まで目にしたことがなかったような気がする。今は観光客がほとんどいないから、こんな時間が流れているのだろうか。「昔はまちぐゎーが遊び場だった」と、いろんな人から聞いたことを思い出す。こんな風景は、もうすぐ見られなくなってしまうのだろうか?

 墨廼江を2杯、シークヮーサーモヒートを1杯飲んで、栄町市場を目指す。20時、「うりずん」に入り、白百合を2合注文する。何組かお客さんの姿があるけれど、それなりに距離を保って座れる程度だ。しかし、今は地元のお客さんのほうが多いから、他のお客さんがマスクせずに話していても気にならないけれど、観光客が戻り始めるとそうもいかなくなるだろう。明日以降はもう、ワクチンが完成し行き渡るまでは飲みに出られないかもしれないなと思う。白百合を飲み干したところで店を出て、「東大」をのぞく。昨日までとは違って忙しそうなので、今日はあきらめることにする。暴力的なものが食べたくなって、浮島通りのセブンイレブンに立ち寄り、豚骨ラーメンを買ってホテルに引き返す。