8月5日

 7時前に目を覚まし、たまごかけごはんを食べる。これから先の予定をぼんやり考えて、そうだ、あの件はもう情報が出ているのだろうかと思って検索してみると、豊岡演劇祭2020のホームページ(https://toyooka-theaterfestival.jp/)を見つける。そこにはマームとジプシーの名前も掲載されており、『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。 そのなかに、つまっている、いくつもの。 ことなった、世界。および、ひかりについて。』が上演される旨が記載されている。無事に上演にいたるのであれば、ぼくは同行し、なにかドキュメントを書くことになっている。その依頼を受けたときに、謝礼も提示してもらっていた。ただ、ここしばらくの新規感染者数の推移を鑑みると、上演を実現させるまでには難しい問題が山積みだろう。いくら細心の注意を払っても感染するときは感染するのだと思うけれど、お金があればよりリスクを減らせる局面もあるはずだ。ぼくは謝礼が出るからと依頼を引き受けたわけではないので、「より厳重な感染対策が施せるのであれば、そちらにお金を使って欲しい」と、メールで送信しておく。それは最初に依頼があったときから頭に浮かんでいたことで、余計なお世話かなとも思ったけれど、言わないまま終わるよりはと、今日になってメールを送った。

 昼は納豆オクラ豆腐そば。知人はセブンイレブンでぶっかけおろしうどんを買ってきて平らげている。日曜夜にメルカリで買った「日記」、今日には届くはずなので、午前中から配達状況を何度も確認してしまう。何度更新しても「持ち出し中」で、そわそわ落ち着かないのでテープ起こしをして過ごす。テレビでは『ミヤネ屋』が始まり、CMが明けると大阪府知事の記者会見の中継が始まった。「あらためて、一部誤解があるようなところも見受けられますので、説明をいたします」とした上で、「このポビドンヨードを使ったうがい薬を使うことで、口の中のウイルスが当然これは減っていくわけですから、人にうつすことを防ぐ、つまり感染拡大を防止する、それに寄与するんじゃないかと。それで府民の皆さんに呼び掛けをしたということがあります」と説く。

 昨日の時点での発言は、「このうがい薬を使って、うがいをすることでコロナの陽性者が減っていく」だ。この発言を、「コロナの陽性者(だと検査で判別できる人)が減っていく」だと捉えれば、昨日から発言は一貫していると言える。ポビドンヨードを使えば、コロナに限らずすべてのウイルスが(口腔内においては)減少することになり、もしもコロナに感染していたとしてもPCR検査で検出することが難しくなる――それはどうやら事実なのだろう。とにかく大阪府からの新規感染者数を減少させたいのだとすれば、かなり意図的に「ポビドンヨードで口の中のウイルスが減る」と記者会見を開いたということになる。

 それが意図的であったのか、それともリテラシーがないままに発信(した上で、開き直って会見)しているのかはわからないけれど、それ以上に驚かされたことがある。それは、「薬局は一時的に品薄になると思うが、生産ラインを増強するのに国とももう話はできていて、不足するようであれば国としても支援すると回答をもらっている」と府知事が語ったことだ。かつて「産学協同」に対しては厳しい視線が向けられていた。戦前への反省を踏まえて、ヴェトナム戦争の時期に早稲田の理工学部三菱重工が共同で戦車の部品を開発していたことが発覚すると、「産学協同」だとして厳しい批判が向けられた――と、『これでいいのだ!』の構成をしていたころに聞いたことがある。それが今や、政治が産業をコントロールすることに何の躊躇いも感じなくなり、むしろそれがリーダーシップの発露であるかのように振る舞われている。

 15時過ぎにテープ起こしが終わっても、まだ「日記」は届かなかった。今日の夜は焼き肉をすることになっているので、近くの肉屋に買い出しにいく。100グラム680円の牛タンとハラミを、100グラムずつ買っておく。それだけでは「焼き肉」というには物足りないので、よく「焼き肉セット」が売られているスーパーマーケットに出かけようとしたところに、郵便屋さんがやってくる。届いた「日記」をいそいそと開封し、読む。今日も在宅で仕事をしていた知人が、その様子を面白がる。こんなふうに配達を楽しみに待つことなんて、滅多にないことだ。ひとしきり読んだところで、再びアパートを出る。「往来堂書店」を覗くと、『のみタイム』が並んでいた。買おうかどうしようか迷ったけれど、店頭で目を通す。これを立ち読みで済ませようとしているのは、「自分は“若手飲酒シーン”から遠い場所にいる」と感じているせいなのだろうか。そうだとすれば、せせこましい。しばらく自問自答しながらページを繰ってみたけれど、読みたい原稿だけ読んでお店をあとにする。スーパーマーケットで300グラム580円(が2割引)になっている焼き肉セットとキムチを、「やなか珈琲」でコーヒー豆を買ってアパートに引き返す。

 19時半、キッチンで知人と立ち食い焼き肉を始める。ハラミがとにかくうまかった。焼き肉しながらNetflixで『相席食堂』(くっきーと又吉直樹の回)を観たのち、別の回を再生するつもりが、操作を間違えたのか『人志松本のすべらない話』が再生されてしまう。2008年にゴールデンで放送された回だ。その冒頭、松本人志が「ぼくやっぱ、緊張してるようです」と切り出す。「さっき、あのー、何年かぶりに、髪をかき上げてしまいました」と発言すると、まわりの芸人がドッと笑う。そのやりとりに時代の変化を感じる。こんなやりとりでは、2020年の今、誰も笑わないだろう(それどころか、何を白々しいボケを用意してきてるんだと冷やかされるだろう)。それがゴールデン一発目のボケとして成立していたのだ。この10年、20年のあいだに、バラエティをめぐる感覚は目まぐるしく変化してきたのだと実感する。誰もが若々しく見える。当時、松本人志が45歳。千原ジュニアが34歳、ケンドーコバヤシが36歳、小籔一豊が35歳。松本人志以外は今のぼくより年下だ。ガレッジセール・ゴリが、コンパで出会ったはるな愛をイジるトークに、隔世の感がある。