8月12日

 8時頃に目を覚ます。たまごかけごはんを平らげ、洗濯物を干し、昨日に続き『夏物語』を読む。お昼が近づいたところで台所に行くと、なんだか臭いがこもっている。これは何の臭いだろう。水回りはきれいにしてあるし、ゴミもさほど溜まっていないのに。あちこち嗅ぎまわり、あ、と思い浮かんだのは洗濯機だ。正確に書くと、洗濯機の下にある排水溝である。前のアパートに住んでいたときに、洗濯機の調子が悪くなったことがあった。脱水ができなくなったのだ。洗濯が終わったかと思って洗濯機を開けると、洗濯槽には水が溜まったままになっていた。何かの間違いかと思って、脱水だけ洗濯してボタンを押すと、ピーピーピーピーッと音が鳴り響き、止まってしまう。ネットで検索してみると、洗濯槽の下にある排水溝には、洗濯機からの排水と一緒に流れでるホコリや髪の毛が溜まり、定期的に清掃が必要であると書かれてあった。ぼくは定期的にポケットティッシュを洗濯してしまうので、余計に排水溝が詰まりやすかったのだろう。洗濯槽には汚れがかなり溜まっていて、ホコリや髪の毛を取り除いていくと、その先には小銭がいくつも詰まっていた。ポケットティッシュだけでなく、たまにポケットにお金を入れたまま洗濯してしまうのだけれど、こんな硬貨がどうやって洗濯槽を潜り抜けたのかと不思議に思ったことがある。

 なんとかひとりで洗濯機をどかしてみると、やはり排水溝には汚れが詰まっていた。パイプユニッシュ的な洗剤を持ってきて、念入りに排水溝にかける。汚れが溶けるのを待つあいだに、納豆オクラ豆腐うどんを作り、平らげる。30分ほど経ったところで――あれ、これはどうやって洗剤を流せばいいのだろう。風呂場の排水溝や洗面台だと簡単に流せるけど、ここはそうもいかなそうだ。しばらく悩んだのち、まわりに水が溢れ出さないように、やかんで丁寧に水を注ぐ。5、6回繰り返してみると、まだホコリが残っているようだったので、念のためにもう一度パイプユニッシュ的な洗剤をかけ、もう30分待ってから洗い流す。何度もやかんに水を汲んで流しているうちにくたびれてしまって、洗濯機をもとの場所に戻すのがおっくうになる。そうこうするうちに外が暗くなってくる。今日は夕立に注意とテレビが言っていたことを思い出し、洗濯物を取り込む。雨雲レーダーを確認すると、埼玉のあたりは紫色に表示されていて、広範囲に雷マークが表示されている。これはものすごい豪雨がくるのではと窓越しにベランダの外を眺めていたけれど、うちのあたりは少し雨が降っただけで、雷鳴どころか雨音もほとんど聴こえてこなかった。

 17時にはもう雨は上がっていたけれど、空はどんより曇っている。なんだか台風が近づいているみたいに見えて、そわそわした気持ちでアパートを出る。雨が降ったせいか外は涼しかった。どんよりとした町を歩いていると、夏が終わってしまったみたいで寂しくなってくる。「往来堂書店」をのぞいたあとで、やなか銀座まで足を伸ばし、「越後屋本店」で生ビールを飲んだ。ぼくがちょくちょく取材に出かけていることを知っていることもあり、「沖縄、いよいよ大変みたいだね」とお店のお母さんが言う。「コロナがこんなに長引くとは、さすがにくたびれてくるね」と。ドラッグストアに立ち寄ると、久しぶりにビオレのハンドソープ(本体)を見かけた。うちには本体も詰め替え用もあるのだけれど、その本体は一年以上前から使っているもので、「そろそろ買い換えたほうがええんやないん」と知人が言っていたことを思い出し、本体を買っておく。なくなりかけている洗顔フォームや、詰め替え用のボディソープも。ティッシュペーパー、今では(銘柄さえ選ばなければ)いつでも買えるようになったけれど、花粉症の季節になればまた品薄になるのだろうか。もしそうだとすれば、ぼくも知人も花粉症なのだから、少しずつ備蓄しておいたほうがよいのだろうか。それもやはり買いだめになってしまうのだろうかと迷いながらドラッグストアをあとにし、スーパーマーケットで今日の夜のぶんと明日の夜のおかずを買っておく。団子坂をあがっていると、ぽつりと雨粒が落ち始める。あ、使い切ってしまったパイプユニッシュ的な洗剤を買うのを忘れていたと今になって気づく。

 20時近くになって帰ってきた知人と乾杯し、シウマイやかつおの刺身をツマミに、さきほど放送が終わったばかりの『有吉の壁』を録画で観る。続けて『あちこちオードリー』を再生する。前回と前々回のゲストは東京03バカリズムだ。前々回の録画は酔っ払いながら再生したものの、途中で止めたままになっている。おさらいもかねて、最初から再生する。知人はずっとケータイをいじっている。なんでケータイいじってんのと咎めると、「いや、これ前に観たし」と言われ、なんだか急に馬鹿らしくなってテレビを消す。なんでこんなに一日中家事をして、帰りを待ちながら「今日は一緒に何を観ながら酒を飲もうか」と考えて、ケータイいじりながら過ごされた上に、そんなことを言われるんだろう。全部が馬鹿馬鹿しくなり、台所に移動して『夏物語』を読み進める。どこで寝ようか、このまま台所の床で寝てやろうか。日付が変わるころになって居間に戻ってみると、テレビをつけたまま知人が眠っているので、タオルケットをひっぺがし、それをぼくがかぶって眠りにつく。