9月10日

 8時過ぎに目を覚ます。昨晩はウィスキーまで飲んでしまったので少しぐったりしている。たまごかけごはんを平らげ、コーヒーを淹れる。来週から始まるツアーは、数日間滞在する施設はアメニティがないらしいので、マイクロファイバー製の速乾バスタオルを引っ張り出し、洗濯しておく。今日は知人も在宅で仕事をしている。昼、知人はサッポロ一番塩らーめんに卵を溶いたもの、ぼくは納豆オクラ豆腐そば。お昼を食べながら『あちこちオードリー』を観た。先週と今週はロバートと渡辺直美がゲストで、ロバートが『はねるのトびら』時代を語っている。ロケバスで移動しているとき、車内のテレビで『めちゃイケ』が流れていて、それを見て笑ったところ、スタッフから「降りろ」と言われた経験を山本が語っている。この番組が大変だったことはキングコングのふたりもYouTubeで語っていたけれど、番組終了から時間が経って時効になりつつあるのだろうか(しかし当時のスタッフはまだテレビ業界にいるだろうにと邪推してしまう)。

 午後は企画「R」の原稿を書く。あれこれ取り寄せた戦争花嫁に関する資料のうち、どの資料を引くか、頭を悩ませる。あれもこれも引用したいけれど、単に「せっかく手に入れた資料なのだから、誰かに伝えたい」という気持ちで引用したところで、文章のグルーヴが下がって読まれずに終わってしまう。ソファに寝転びながら考えて、引用する文章を決めると、あとは思った以上に早く書き進められた。18時過ぎにはほとんど書き終える。文章をどう終わらせるかはもう少し考えるとして、とりあえずほっとする(ツアー先に資料をすべて持っていくわけにもいかないので、ある程度書き上げてから出発しなければと焦っていた)。17500字、今月は短めにまとめるつもりでいたけれど、また長くなってしまった。

 原稿を読み返していると、知人が買い物に出かける支度を始める。アイフォーンを、首から提げられるストラップにくっつけようとしている。知人が「つけづらい」と独り言を漏らすと、「私でよければ、いつでも話を聞きますよ」とSiriが答える。「つけづらい」が「つらい」に聴こえたようだ。近所の八百屋に出かけた知人が、10分後、ほくほくした顔で春雨を抱えて帰ってくる。「あそこの店は春雨が充実してて嬉しい」と言いながら、さっそく春雨を水で戻し、挽肉と春雨の炒め物を作ってくれる。それをツマミに、ビールで乾杯。知人はいつもスタイルフリーを飲んでいて、ぼくは今は一番搾りを飲んでいる。それぞれ別のビールを箱買いするのも面倒だし場所をとるので、スタイルフリーを一口飲ませてもらったけれど、やはり薄口に感じる。頑張って毎日ビールが飲めるように稼がなければ。ステレオタイプのように描かれる昭和の父親像に、「ビールを飲みながら野球中継を観る」という姿があるけれど、野球中継が始まる時間に帰宅して毎日ビールが飲めるというのはすごいことだ。それだけでも、日本は豊かだったのだなと感じる。

 ビールを飲みながら、まずは『荒ぶる季節の乙女どもよ。』を観る。今週始まった深夜ドラマだ。なんでこれを観ようと思ったのかと、知人が不審そうに言う。新しいドラマが始まると、とりあえず録画はしておくけれど、観たいと思えるタイミングがくるまでほったらかしにすることが多い。でも、そんなふうに放置したまま終わってしまうことがあまりにも多いので、録画したものを片っ端から観ようと、急に思い立ったのだ。映像が綺麗なドラマだ。それを観終えると、『いだてん』16話を再生する。ベルリンオリンピックが中止になってしまった。続けて、過去に焼いたブルーレイディスクを漁り、『北の国から』を観る。何度か観ようと思い立ったものの、途中で挫折していたドラマだ。

  これまでは「そういうドラマだ」という先入観がすでにあったので気にかけてこなかったけれど、どうしてこの風景の中にドラマを描こうと思い立ったのだろう。富良野の風景はもちろん雄大な自然ではあるけれど、あれほど雄大な自然を前にすると「はーーー、きれいだなあ」と漠然とした感情を抱いて終わってしまいそうなものなのに、そこに暮らしている登場人物の姿を幻視し、ドラマを描くということは、すごいことだなと思う(あとでウィキペディアを確認して、富良野に移住したあとで『北の国から』を書いたのだと知ったけれど、そのいきさつや、疎開体験に関する記述が目が留まる)。クマが出たのではと動揺する場面で、兄妹が祈りを捧げ、五郎も「我らの罪を赦したまえ」とつぶやく(フレーズはうろおぼえ)。前に観たときは気に留めていなかったけれど、五郎はクリスチャンなのだろうか。