どうしてこんなにドライブインが気になるのか、考えてみた。

 最近、夕方になるとテレビをつけます。『古畑任三郎』の再放送をやっているからです。何度も観たドラマのはずですし、犯人の動機も知っているはずなのに、どうして毎日観てしまうのか。なかなか不思議です。先週の月曜日には、中森明菜が犯人の回が放送されていました。ドラマは土砂降りの場面から始まります。山道でエンストしてしまい、身動きが取れなくなった古畑任三郎は、電話を借りるべく近くの近くの洋館を訪れます。そこには、知り合いを事故死に見せかけて殺してしまった中森明菜がいました。古畑が、それが事故ではなく殺人だと確証を得る手がかりになったのは、被害者の財布に残っていた2枚のレシートでした。

「まめな人なんだ、領収書がこんなに」と古畑は言います。「日付は……そうだ、ぜんぶ3日前ですね。ガソリンスタンド、高速道路。畑野さん、免許はお持ちでしたか? 持ってない? やはり連れがいたんですね。(領収書を確認して)ドライブインで食事してます、コンビニも寄ってます。ドライブインの領収書です。カレーライスとカレー南蛮そば食べてます。ひとりで食べるにはずいぶんな取り合わせです。インド人だってこんな食べ方しません」

 このセリフを聞いて、おや、と違和感をおぼえました。カレーライスが570円、カレー南蛮そばが480円と、今ではありえない価格だから、というのもあります。でも、そもそも、ドラマのなかに「ドライブイン」というフレーズが出てくるなんて、それも殺人事件だと確信するキイとなる場面で登場するなんて、今では考えられません。中森明菜が登場する回は、いったい何年にオンエアされたのか。調べてみると、それは1994年4月13日。『古畑任三郎』、記念すべき第1回目の放送でした。この年月を考えると、ドライブインとコンビニが並列されているのは象徴的なのですが……それを書き始めると長くなるので、当日話すことにします。

 そもそも、ドラマに「ドライブイン」というフレーズが登場したこと気にしているのは、僕だけかもしれません。だって、この回の『古畑任三郎』を以前にも観た事があるはずなのに、そのときは何も気にならなかったのですから。

 どうしてこんなに、ドライブインが気になるようになったのか。きっかけは2009年4月30日まで遡ります。原付で鹿児島を訪れていたぼくは、宮崎を目指して走っていました。錦江湾桜島を望む国道10号線が大きなカーヴを描いた先に建っていたのは、異様な建物。ぼろぼろで、要塞のような雰囲気を漂わせている建物――近づいてみると、それはドライブインだったのです。

 鹿児島を訪れる以前にも、北海道や広島まで原付を走らせたことがあります。原付なので、走る道は一般道です。もしかしたら、いや、間違いなくドライブインが存在していたはずですが、休憩はもっぱらコンビニかファミレスを利用していたぼくは、ドライブインを気に留めたことは一度もありませんでした。そうか、ドライブインか。そう思って走ってみると、数多くのドライブインがありました。しかし、その半数以上は廃墟と化し、まだ営業を続けている店舗も、ひっそりと営業しているように見えました。

 風景というのは不思議なもので、消えてしまうとなかなか思い出せません。ぼくは中学3年生のときに一度引っ越しましたが、引っ越す前の家がどんな風景だったか、あまり覚えていません。入学式か何かのときに撮った写真はあるのですが、もっとこう、生活の中にあるありふれた風景は、記録という形では残りづらいものです。ドライブインの風景も、いま記録しておかなければ、それがどんな場所であったのか、思い出すのも難しくなるはず――そうなってしまう前に、取材しておきたいと思うようになりました。

 取材したい、とはいえ、懐かしいものを懐かしいものとして取材するのは嫌でした。単なるレトロ趣味としてではなく、何かもっと違うアプローチを見いだせないか。それを探しているうちに2年が経ち、今年の8月28日にようやくドライブインをめぐる旅が始まりました。それから1カ月のあいだに東北を2周し、広島と岡山を走り回り、九州を縦断し、青森から鹿児島まで59軒のドライブインを見て回りました。

 数多くまわったところで、たいして違いは見いだせないかとも思っていましたが、そんなことはありませんでした。ドライブインが残っている場所はどういう場所なのか。かつてドライブインはどんな場所だったのか。どうしてドライブインは消えて行ったのか。店主たちに話を聞いているうちに、少し大げさなことを言えば、日本の地方の姿が、あるいは戦後のある風景が見えてきたのです。

 当日は59軒の写真をたっぷり紹介しながら、そのあたりのことを考えてみたいと思います。「スナック」という名前の通り、会場ではお酒も飲めるようになっています。つまみも、少しはあるはずです。

スナックちから vol.3
「忘却されゆくロードサイド〜ドライブインにチェックイン!」

 
ゲスト:橋本倫史(「HB」編集発行人/ライター)
ホスト:藤原ちから、辻本力/チーママ:カジワラマリ 
日時:2011年11月12日(土)17:30 Open & BAR TIME / 18:30 Talk Start
会場:SNAC acceess(http://snac.in/?page_id=5)
料金:1000円(1ドリンク込み)
予約方法:CONTACTのページ(http://snac.in/?page_id=40)より、題名を「スナックちから」とし、本文に「お名前・枚数・電話番号」を記入の上、送信ボタンを押して下さい。こちらからの返信を持って、ご予約完了となります。
なお、定員になり次第、受付を締め切らせて頂きます。ご了承ください。
詳細はこちら→http://snac.in/?p=1658