7時半に起きる。昨日と同じ餅を選んで朝食。シャワーを浴び、コーヒーを飲んで実家を発つ。母が「お弁当でも買いんさい」と3千円渡してくれた。午前中なら新幹線も空いとるじゃろうねと母は言うが、僕はまだ新幹線には乗らない。八本松から倉敷までの切符、1890円。駅の自販機でミネラルウォーター、110円。倉敷までの道中はパソコンを開いて日記を書き、あとは『富士日記』をちびちび読んだ。だんだん読むスピードが落ちてきた。新倉敷の手前で顔を上げると、へんてこな造りの学校が見えた。玉島北中学校と看板が出ている(この日記を書くのに検索してみたら、実際ちょっと変わった学校だった)。
 
 11時過ぎに倉敷に着いた。コインロッカーに荷物を預け(400円)、身軽になって街を歩く。年始だからか、日曜だからか、いつもより人が多く感じられる。駅の北にあるショッピングモールに向かう地元の人も、南にある美観地区に向かう観光客も両方多い。時間があるので、阿智神社に詣でた。おみくじを引きたいが小銭がなく、巫女さんに両替をお願いするのも失礼な気がしてお札を買った。700円。おみくじは100円。さっそく開いてみると「難儀苦労のある時ばかり神の御袖にすがる気か」と一行目にある。お札も買ったのにあんまりだ。
 
 蟲さんのところに行くと、きっと今日もコーヒーを淹れてくれるだろう。それなら先にお昼を済ませたほうがよりおいしく飲めるはずだ。ということで、「三宅商店」という店に入り、三宅カレーというのを注文した。季節のカレー(今日はほうれん草のカレー)と漬け物とスープで850円。ビーフシチューみたいなカレーだった。相席になった女子大生三人組は「パフェにする!?」と50回くらい繰り返していた。
 
 食後、「蟲文庫」。蟲さんが淹れてくれたコーヒーは今日もおいしい。「淹れてるとこ、写真に撮っていいですか」というと、どうぞどうぞと言ってくれたので一枚だけ撮った。僕はコーヒーを淹れている蟲さんの姿を撮りたいと思ってお願いしたのだが、蟲さんはコーヒーの淹れ方を研究したくて撮りたいと言い出したのだと思ったらしく、真剣にコーヒーを淹れ続けながら、「お湯を注ぐのは、500円玉ぐらいの範囲でいいみたいですよ」と教えてくれた。
 
 コーヒーを飲みながら話したのは、年末年始の新幹線の混雑ぶりについて。僕が、今日も混んでるかもしれないんですよね、まあ終電で帰るつもりだからたぶん大丈夫だと思うんですけど、と話すと、「岡山始発の新幹線に乗るといいですよ」と時刻表を調べてくれる。僕はこのあと大阪に出て、そこから新幹線に乗るつもりなのだが、もう既に調べ始めてもらっているのが申し訳なくて言い出せなかった。「数字に弱くて、言った端から忘れてしまうんですよね」と、メモまで書いてくれたのに。「会計のとき、『700円です』と言ったあとにお客さんとちょっと話をしたりすると、もういくらだったか忘れちゃって」と蟲さん。この日僕は福田さんの『喧嘩の火だね』を買った。1000円と書いてあったのを「もう古いから、800円で」とまけてくれた。少し話をして千円札を渡すと、300円帰ってきた。
 
 しかし。僕は全然倉敷に縁のない人間だけれども、こんなふうにご近所さんみたいに話ができるのは嬉しい。去年や一昨年の1月の日記を確認してみると、1年前の年始には蟲さんにインタビューをしていたけれど、その前の年にはまだ蟲さんにちゃんと挨拶しておらず、お店にお邪魔したあとで「いまの、HBの橋本さんだったのかな」とつぶやかれていたのだった。僕は「じゃあ、また近々」と言って店をあとにした。
 
 倉敷駅まで戻り、新大阪までの切符を買う。5670円。14時9分ののぞみは少し混んでいるので見送ると、後ろに並んでいたカップルもそれを見送った。時期が時期だけに、自由席のホームには車両ごとに係員が立っているが、扉が閉まる直前に「次のほうが混んでますけど、よろしいですか」と言った。アナウンスでも「次ののぞみ号自由席は満員のためご乗車いただけません」と言っている。しきりに岡山始発のひかりに誘導する駅員たち。実際、次の14分発ののぞみのほうが混んでいて、それでもカップルたちは何とか乗り込んで行った。僕はそれも見送った。依然としてアナウンスはひかりの利用を推奨しているが、「本日ののぞみ号自由席は大変な混雑が予想されます」と、微妙に言いまわしが変わった。それもそのはずで、次の23分発ののぞみは広島始発なのだ。僕はそののぞみに乗った。もちろんまだ空席があった。
 
 新大阪から御堂筋線に乗り、16時に天王寺に着いた。270円、大阪の地下鉄はいつ来ても高く感じる。天王寺駅近くでライターのNさんと待ち合わせて、シブい立ち飲み屋で酒を飲んだ。昨年、一緒に飲む約束をしていたのに体調を崩してドタキャンしてしまっていたので、そのお詫びも兼ねていたのだが、1軒目はNさんが払ってくれた。せっかくだからとハシゴ酒。動物園前のほうに歩き、2軒飲み歩いたのち、僕の新幹線の終電に間に合う時間まで飲んで別れた。慌ただしくて申し訳ない気持ち。そう、終電に間に合う時間には別れたはずなのだが、電車に座ると少しウトウトしてしまい、うっかり終電を逃してしまった。指定席の切符を買っていたので、特急券はパア。それに宿泊費もかかる。お金を貯めるぞと決意した翌日なのに、さっそくムダなお金を遣ってしまった。それより何より、知人に会えるのが一日先になってしまって残念だ。