2月10日

 夜、桜木町に出かける。マームとジプシー「Rと無重力のうねりで」初日。開場前、ロビーに佇んでいると、ドヤドヤと三人組のおっちゃんたち入ってくる。

「当日券、三枚!」
「あの、マームとジプシーの公演でよろしいですか?」と受付の女性。

「うん、ボクシングのやつ」――今日の公演はボクシング芝居だ。ボクシング芝居を演じるため、役者の石井さん、尾野島さん、中島さん、波佐谷さんの四人はジムに半年間通っていた。少し離れたところにいた制作のはやしさんは三人に気づき、「来てくださってありがとうございます」と挨拶をする。どうやらお世話になったジムの皆さんらしい。

「今、挨拶してくれたのは誰だっけ?」
「あれは劇団の人だよ。ボクササイズをやりにジムにも来ただろ」

 はやしさんは、ボクササイズをやっていない。

「石井君のところに挨拶に行かなきゃ」
「いやいや、ダメだよ。本番前のミーティングで、集中してるはずだよ」
「そうか、邪魔しちゃ悪いな」
「今頃は長谷川穂積になりきってる時間だから」

 当日パンフレットに折り込まれたチラシの中に、「川上未映子×マームとジプシー」の文字があった。去年の九月、「初秋のサプライズ」と銘打った公演があった。川上未映子さんのテキスト――「冬の扉」、「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」、そして公演のために書き下ろされた「まえのひ」の三つを、藤田さんが演出し、青柳さんによる一人芝居という形で上演された。この作品でいわきのフェスティバルに参加することは知っていたけれど、いわきだけではなく、全国ツアーに出るらしかった。チラシには日本地図が描かれている。東京、いわき、松本、京都、大阪、熊本、沖縄、そして再び、東京。あちこち出かけたら楽しいだろうな。そんなことを空想しているうちに、劇が始まった。

 終演後は近くのワイン酒場に出かけた。僕が呑気にポテトサラダの写真を撮っていると、「橋本さん、いわき来ます?」と藤田さんが言った。

「行きます、行きます」と答える。さきほども書いたことだけど、いわきでは「I-Play Fes 2014 〜演劇からの復興〜」と題したフェスティバルが開催される。そこに今日初日を迎えた「Rと無重力のうねりで」と、青柳さんの一人芝居「まえのひ」が参加することは知っていて、もうチケットも予約してある。

「いわきどころか、ツアー全部来るんですよね?」と、青柳さんが言った。そうか、全部観に行ったっていいのか。そう思うと、帰り道には全日程のホテルを押さえていた。