『沖縄再訪日記』のこと

 8月5日に『沖縄再訪日記』という本を発売します。価格は500円(税込)です。

 『沖縄観劇日記』
 著・橋本倫史 発行・HB編集部
 500円(税込) A5判 32頁

 通販のお申込(ご予約)は、こちらのURLから承っております。送料は無料です。
 http://form1.iip.jp/?id=hstm1982

 8月5日、「杜のホールはしもと」で上演されるマームとジプシー「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」の会場でも販売を予定していますが、お取り扱いいただける書店、募集しています。ご興味ある方は、こちらのURL(→http://hb-books.com/?page_id=263)をご参照くださいませ。

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 これは、去年、マームとジプシーの舞台「cocoon」に向けて皆で沖縄を訪れたときのことを記した『沖縄観劇日記』の続編にあたる日記です。去年は大勢で沖縄を訪れましたが、今年は「cocoon」で“サン”という女の子を演じていた女優の青柳いづみさんが一人で沖縄を訪れていました。僕は青柳さんに同行して、3日間、沖縄を巡りました。これはその3日間の日記です。

 以下、少し長くなりますが、この日記について記しておこうと思います。

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 この日記は純然たる日記なので、まえがきやあとがきはありません。というよりも、まえがきやあとがきのことを考える余裕もなかった、と書いた方が正確かもしれません。とにかく、日記を書き終えて入稿する――そのことだけで頭がいっぱいだったのです。だから、せめてここに、まえがきにあたることを書いておこうと思います。

 1年前の6月23日から25日にかけて、僕は沖縄を訪れました。そのときは昨年の夏に東京芸術劇場で上演された舞台・マームとジプシー「cocoon」の出演者やスタッフと一緒で、その旅のことは『沖縄観劇日記』というタイトルで刊行しています。それから1年経って、僕は再び沖縄を訪れました。去年は大人数の旅だったのに、今年は「cocoon」でサンという女の子を演じた青柳いづみさんと2人だけでした。その青柳さんとも、「一緒に沖縄に行きましょう」と相談したわけではなく、それぞれが沖縄を訪れたのです。その時点では、「この旅のことを日記に書こう」というつもりはまったくありませんでした。

 日記を書こうと思ったのは、青柳さんのふとした一言でした。その一言というのは、日記の中に書いてあるのでここでは省きます。旅の1日目から「今回のことも日記に書いてくださいよ」とは言われていたのですが、書かなければと思うに至ったのは、旅の3日目になってからでした。

 ところで、僕にとって青柳さんというのは怖い人です。いまだにおそろしい存在です。そのおそろしさというのは、つまるところ「わからない」ということにあるのだと、一緒に旅をするなかで思うようになりました。舞台に立っている青柳さんの姿は何度も観ているし、今年の春に行われた、川上未映子さんのテキストを青柳さんの一人芝居で上演する「まえのひ」という作品の全国ツアーには僕も(半ばスタッフのようにして)同行していました。でも、どれだけ観ていても、「わかった」と思うことがないのです。

 たとえば。青柳さんはなぜ、沖縄を再訪したのでしょう?――いや、再訪に限らず、昨年の6月、なぜ「cocoon」を上演するにあたって沖縄を訪れたのでしょう? たしかに、「cocoon」はひめゆり学徒隊をモチーフとした作品ではありますが、では沖縄を訪れないと演じることができないのかと言うと、そういうことではないはずだと僕は思っています。では、彼女はなぜ沖縄を訪れ、1年後の6月に再び沖縄を訪れたのでしょう?

 その答えは、僕にはわかりません。おそらく青柳さん自身もはっきりわかっているわけでもないのではないかと思います。でも、その「わからない」という前提に立ってみると、旅の途中で、青柳さんと交わしている会話の中で、いくつか気づくことがありました。せめてそのことを書き留めておこうと思って、僕は再び日記を書くことに決めたのです。

 書き始めた時点では、この日記はウェブで公開するつもりでいました。でも、記憶を辿りながら書いているうちに、日記は2万字近い量になってしまいました。その量であるとか、そこで青柳さんが僕に話してくれた言葉の性質のことを考えると、ウェブにはあまり適さない言葉かもしれないと思うようになりました。青柳さんも、「ウェブで公開するのでもいいけど、印刷もしてほしい」と言いました。それで結局、ウェブで公開するのは止めにして、印刷物としてのみ公開することに決めました。

 この日記が一体どういうものになっているのかは、自分でもよくわからないところがあります。僕はいつも、原稿を書くとき、一緒に暮らしている知人に原稿を読んでもらいます。僕にとっての“世間”みたいなものは、知人の感覚の中にあるのです。知人が面白いと言えば伝わりやすいのかなと思うし、ううんと唸れば伝わりづらいのかもしれないと思う――そんなふうに判断しているところがあります。今回の日記についても、知人に判断を委ねるつもりでいました。ところが、僕が1ヵ月かけて日記を書いているあいだじゅう、知人に「あのときの青柳さんは……」「このときの青柳さんは……」と話をし続けたせいで、書き終えた日記を読んでもらおうと思っても、「もういいよ、その話は」とそっぽを向かれてしまいました。だから今でも、この日記がどういうものになったのか、自分でもよくわからないでいます。

 この日記が刷り上がるのは、8月5日です。8月5日と言えば、1年前に「cocoon」が初日を迎えた日です。それから1年経って、そのときの戯曲や、舞台を受けて原作者である今日マチ子さんが新たに書き下ろした漫画が収録された『cocoon on stage』というタイトルの本も出版されています。舞台は終わると消えてなくなってしまうけれど、それでも皆、“そのこと”を考え続けているように思います。彼(女)たち――と複数形にはできないけれど、あの舞台に“サン”として立っていた青柳いづみという女優が何を考え続けているのか。この日記は、それを知る手がかりにはなるはずだと思います。

沖縄の砂浜に佇む、青柳いづみさん。