1月1日

 謹賀新年。朝9時に起きてカーテンを開けると一面の銀世界だ。夜のうちに降り積もったようだ。あまりの雪に――といっても数センチだが――両親は毎年恒例の宮島への初詣を見送ったらしく、リビングにいた。餅を2個焼いてもらって朝食にする。普通の餅と、柑橘系の餅。食後、雪の降る町を見渡そうと外に出る。庭にざくざくと足跡をつけてから少し山のほうに歩いてみたけれど、あんまり寒いので途中で引き返す。あとで調べると、気温はマイナス3度だった。ジャージ姿で出かけられる気温ではなかった。

 昼はおせち。この十年近く、僕の同級生の親が経営するセブンイレブンでおせちを購入していたのだが、昨年でその店は閉店してしまった。今年は一体どうするのかと心配していたが、同級生のお母さんは近くにある別のセブンイレブンで働いているらしく、かつての常連客たちの家には宅配で届けてまわるのだという。その同級生の家はもともと酒屋だったというせいもあるだろうが、コンビニとはいえほとんど個人商店みたいだ。

 そのセブンイレブンのおせちと、母が作った煮しめ、それにぶりの照り焼きが食卓に並ぶ。最初は「正月だから」と一杯だけ皆で乾杯した。が、一杯だけでは物足りず、うずうずしてしまう。おせちは酒のツマミとしてとても魅力的だけれども、いつだかの正月、チビチビ飲みながらおせちをツマんでいると「いつまで飲みよるんや!」と父に怒鳴られたことがある。飲み始めてまだ1時間と経っていなかったのに、である。しかも、少し前に体調を崩してから父は禁酒をしているらしく、となると、余計に人が酒を飲んでいることに敏感だろう。うずうず過ごしていると、先に食事を終えてテーブルを離れた兄がひと口も口を付けずに残した日本酒が目に入ったので、そっとグラスを取り替えた。

 午後になると雪が少し落ち着いてきたので、両親は初詣に出かけて行った。雪が落ち着いたとはいえ、道路には雪が残っていたり凍結したりしている。うちのクルマはノーマルタイヤのままなので(両親はもう仕事も辞めているので、「雪の日にまで出かけることはない」という考えになっている)、どこかに出かけることもできず、部屋でパリの日記を書いて過ごしていた。休憩がてらネットを眺めていると、昨晩の紅白歌合戦でサザンが「ピースとハイライト」を歌ったこと、そして急遽サザンを出場させてその曲を歌わせた製作陣への賞賛の声が流れてくる。一体この人たちは何を話しているのだろう。あの歌を聴いて、ヘイトスピーチを繰り返す人に届くだろうか?
数日前のコンサートでは安倍首相を皮肉る歌詞を追加して歌ったそうだが、その会場にいた首相本人だって感想を問われると「楽しみましたよ」と笑顔で答えている。響いていないのだ。それを「鈍感だ」とか「首相としてふさわしくない」と切って捨てることは簡単だけど、それは現状に対して何の効力も持たない。

 夕方、祖母の様子を見に行く。僕の実家と祖母の家は別の棟だが、廊下で繋がっている。祖母はテレビを消して横になっていた。「寒いねえ。雪が降りよるよ」と声をかけると、「ほんまぁ。雪が降りよるん。全然気づかんかった」と祖母。お茶を淹れて持っていくと、「ああ、あんたにお茶を淹れてもらう日がくるとはねえ。ああ、もったいなくて飲めやしません」と祖母は言った。祖母は僕の顔を見るたびに、昔は小さかったのにねえ。うちが自転車の後ろに乗せて帰りよった頃が嘘のようなねえ。と同じ話をしていたが、今年はもう、その話をされることもなかった。

 両親は18時過ぎに帰ってきた。とてつもない人出だったらしく、少しくたびれた様子。来年からは(少なくとも元日に)初詣に行くのはやめようかなんて話している。両親も年を重ねているのだなと思った。父は戦争が終わる半年前に生まれているから、今年で70歳になる。夕食もおせちだった。それに加えて、ぶりの刺身が食卓に並んだ。ひと口食べてみると、ここ数年食べたぶりの中でも抜群にうまい。これを酒なしで……。そう思うと悔しくて、しばらく手をつけずに過ごして、父が席を外したタイミングでコップに日本酒を注ぎに行き、ぶりを堪能した。