1月9日

 朝8時に起きてジョギングをした。10時半、駅近くにあるレンタカー屋で軽バンを借り、曽我部恵一『My Friend Keiichi』を流しつつ原宿へと向かった。別にドライブに出かけるわけではなく、知人に頼まれて荷運びの手伝いをするのだ。原宿で知人と荷物をピックアップして、外苑西通りから広尾方面を目指す。途中で音楽を椎名林檎「NIPPON」に替えると、『紅白』で聴いたときはピンとこなかったのに、これが頗るよい。クルマを運転していて響いてくる曲だ。ついアクセルを余計に踏みたくなる。走っていると、正面に六本木ヒルズが見えた。でっかい墓みたいだねと知人は言った。

 恵比寿にある事務所に荷物をおろすと、ちょうどお昼時だ。せっかくなので、知人とランチをすることにする。適当な駐車場に停めると、なんと15分400円とあるので、小走りで「ダ・ミケーレ」へ。以前『ヒルナンデス』で紹介されていたピッツェリアで、一度来たことがあるのだが、その日は散々飲んだあとだったので記憶がなかったのだ。ただ、案内された席についてみると、妙な既視感をおぼえる。僕が不思議そうにしていると、「前もこの席だったんだよ」と知人が教えてくれた。

 今晩から関西に出かける知人と別れて、高田馬場に戻る。クルマを返却して帰宅すると、ほどなくしてチャイムが鳴った。僕が戻すのが遅くなったゲラを受け取りにきてくれたのである。てっきりバイク便かと思いきや、編集者らしき女性が立っていたので、僕が持っていけばよかったなと申し訳ない気持ちになる。

 15時過ぎにブリヂストン美術館に出かけた。今は「デ・クーニング展」が開催中だ。デ・クーニングは抽象表現主義の画家だ。日本で抽象表現主義と言えばポロックのほうが有名で、美大出身の知人もポロックは知っているがデ・クーニングのことは知らないと言っていた。僕はポロックのことすら知らなかった。展覧会に足を運ぶのは久しぶりだ。昔は教養を身につけないとという気持ちで一杯だったけれど、今はもっと好き勝手に観られる気がする。平日にもかかわらず、会場にはたくさんの人がいた。展示を観ていると、”解説”をしている人がずっと近くにいて、神経質になってしまう(今月の『文藝春秋』を読んでこんなことを書くのもアレだけど)。

 展示を観終えて、ミュージアムショップでカタログを買おうか迷っていると、肩を叩かれた。振り返ると友人のUさんが立っていた。奇遇だ。せっかくだからお茶かお酒に誘おうと思っていたのだが、このあと予定があるという。Uさんと別れて、竹橋に出る。チケットを買って東京国立近代美術館に入り、まずは「高松次郎ミステリーズ」展を観始めたのだが、哲学的でも科学的でもあり、頭からぷすぷすと何かが出てきそうになる。本当の目当ては「奈良原一高 王国」展だったのに、頭を回転させ過ぎたのかすっかりお腹がぺこぺこになり、じっくり観ることはできなかった。

 美術館を出たところで時計を確認すると18時だ。新宿5丁目「N」に行くつもりでいたけれど、まだ開店前だ。とりあえず神保町まで歩き、「小諸そば」できつねを注文。うどんでお願いしますと伝えるのを忘れていた。それに加えて、セブンイレブンで赤飯のおにぎりを食べたところで、ようやくお腹が落ち着いた。「東京堂書店」で数冊購入して、久々に「伯剌西爾」でマンデリンを飲んだ。おいしい。そろそろ「N」の開店時刻が近づいているけれど、コーヒーを飲んでいるうちに満足した気持ちになった。それに、ここ数ヶ月というもの、1日の休みもなくお酒を浴びるように飲んでいるので、今日くらいは休肝日にすることに決めた。アパートに戻り、部屋着に着替える。タオルを出すのが面倒で、今日着ていたシャツで顔を拭うと、「伯剌西爾」の匂いがした。