8時に起きる。今日は久しぶりに締め切りのある原稿がなくなったので、のんびりした気持ち。昼、ゼンパスタを食す。14時、入念にストレッチをしてジョギングに出かける。今日はとにかく2時間走ってみることにした。2時間走り続けるって、いったいどんな感覚になるのだろうと思い立ったのだ。走っていると下校中の小学生たちとすれ違った。荷物をたくさん抱えている。朝顔の鉢を持った子もいる。そうか、そろそろ夏休みなのだなあ。50分ほど走ったところで皇居に出て、千鳥ヶ淵に出て引き換えす。1時間半で走れなくなって、10分くらい歩いて、最後にまた走った。走り終えるとへろへろだが、清々しくもある。

 17時、有楽町へ。三省堂書店でAさんと待ち合わせて、交通会館にオープンしたビアテラスへ。しかし、今日は予約で一杯だと断られ――おしゃれビアガーデンは今、本当に人気なのだなあ――銀座ライオン銀座七丁目店へ。ここの天井を見るのが好きだ。黒ラベルの中ジョッキとペールエールで乾杯。塩えんどう豆、ビヤホールウィンナー、ビヤホールの煮込みをツマむ。最後にナポリタンで腹を満たしたのち、タクシーでホテルオークラへと向かった。

 Aさんと約束をしたのは、ホテルオークラのバーに行ってみるためだった。数ヶ月前、ホテルオークラで行われた兄の結婚式のあとに一人で飲んだのが楽しかったのだが、その話をAさんにすると、「今度一緒に」という話になったのだ。別に電車で行ったってよかったのだけれども――両親と一緒にタクシーでホテルオークラに向かったとき、その風景がとても印象的だったので、今日もタクシーに乗ってみることにした。ホテルオークラへと走っていると、ふっと建物が消えてあたりが暗くなる。建物が消えるというか、道の両側が塀になる。この道は一体どこに通じているのかと不安になる感覚が、都心のど真ん中にはある。

 ホテルの1階で葉巻を買って、バーに入る。Aさんはグレンリベットを、僕はオールドパーを注文した。ホテルのバーは、安いというわけではないけれど、足を踏み入れられないほど高いわけでもない。2杯目を選ぶとき、少し迷って僕はフォアローゼスを注文した。「最近、ときどきコットンクラブに行くんだけど、学生時代に何人かで行ったことがありましたよね」と僕。「ありましたね」とAさん。「今はコットンクラブも特別高いとは思わないけど、昔はすごい敷居が高く感じたんですよね」「ああ、高く感じましたね。そういえば、あの頃フォアローゼスを飲んでませんでしたっけ?」「飲んでましたね。Aさんが『バラの香りがする」って言ってたの、おぼえてますよ」。フォアローゼスを頼んだのは、そのことを思い出したからだった。10年前も今も、僕にはバラの匂いは感じられなかったけれど。

 「最近、よく話すんですけど」とAさんが言った。「市川に住んでた頃は楽しかったなって」。Aさんが市川に住んでいたのは数年前だが、市川の場合は「焼き鳥ならここ」「洋食ならここ」と定番の店が決まっていたから楽しかったのだという。その気持ちはわからなくもない。あんまり選択肢がありすぎると、結局どこにもいかずに過ごしてしまう。

 22時過ぎ、Aさんと別れて池袋へ。Fさんから「両親と飲んでます」と連絡があったので、ひものやへ。到着してみるといつもより大勢だ。「橋本さんはここ」と促され、お父さんの隣に座り、日本酒を注いでもらって乾杯する。お父さんがお代わりを注文しようとすると、お母さんが厳しい目を向けている。健康のことを考えれば、あまりお酌をしないほうがいいことはわかっているのだけれど、こうして皆がワイワイ過ごしている風景を目の前にしていると飲まずにはいられないのだという気持ちは、僕にもよくわかる。だから、ごく控えめに、ときどきお酌をした。0時過ぎにおひらきとなる。最後はFさんとその弟と3人で「磯丸水産」に入り、兄弟が話す様子を眺めながら日本酒を飲んでいた。