昼頃起きる。テレビではどの局も又吉さんの芥川賞受賞を報じている。ネット記事もたくさん出ている。編集者のAさん(との、「火花」執筆に至るまでのストーリー)を取り上げたものが多いのは、裏を返せば、又吉さん自身のコメントが取れていないからだろう。漫才コンテストの場合を考えるとわかりやすいけれど、翌日から取材ラッシュになっていてもおかしくないはずなのに、特にそんな様子は伝わってこない。周りのスタッフに恵まれているのだなあと思う。

 午後は明日からの旅支度をしていた。夜はしばらく近所の酒場で飲んだのち、四谷に出かける。今日は「スナックアーバン」の5周年で、九龍ジョーさんが1日ママ(?)をしていると聞いてやってきたのだ。店の前についてみると、知り合いの編集者・M田さんが店に入ろうとしているところだ。続いて中に入ると、店内には他にも見知った顔があった。ハイボールをいただきながら、皆のカラオケを聴いていた。僕の隣に座る女性が歌う洋楽がいたく格好よかったので、隣に座るM田さんに「知り合いですか」と訊ねてみると、ある雑誌の編集者だと教えてくれる。

 1時間経つ頃にはほぼ満席になってきた。この店の常連でもない僕が、こういう日に長居するのも申し訳ないと思って、会計を済ませて店をあとにする。店を出る直前に、編集者のU山さんと少しだけ立ち話をした。僕は以前、U山さんに「橋本君がよくわからないものに熱中してるって感じがしない」と言われたことがあって、ずっとそのことを考えている。そんな話をすると、「いや、橋本君が何かに熱中してないってことはないと思うんだけど、橋本君の書いた原稿を読んで、誰かが何かに夢中になるってことがない気がするんだよね。それだけだよ」とU山さんは言った。それは自分でもよくわかっている。よくわかっているけれど、自分が誰かを熱中させることができるとも思えないのだ。だから僕にはライターとしての資質がないのかもしれないけれど、そのぶんせめて、いろんなことを書きとどめておこうと思って過ごしている。