朝10時に起きる。今回はあまり時差ぼけを感じることなく過ごせそうだ。さっそく『ゼロから話せるイタリア語』に付属したCDをパソコンに取り込んで、テキストを開いてみる。まだ眠そうな顔をしている知人に何度も「ボンジョールノ!」と声をかけると、何度目かで弱々しく「ボンジョルノ」と返ってくる。「ボナセーラ!」「ボナノッテ!」と続けざまに言ってみると、それも弱々しく復唱してくれる。が、4つ目に掲載されている「ピアチェーレ!」というフレーズを口にすると、知人は少し眉間に皺を寄せて首を傾げている。

 昼過ぎ、知人と代々木公園へ。この2日間、「代々木公園では北海道フェアが開催されています!」とリポートしているテレビ番組を何度か観たので、足を運んでみることにしたのだ。どこも大行列だ。海鮮系を買うのは無理だろうなあと歩いていると、「甘海老ラーメン」という看板が目に留まる。僕は甘海老が大好きだ。知人はその隣にある唐揚げの店に目をつけて、二人で別々の行列に並んで、あとで合流して一緒に食べた。甘海老ラーメンは、海老というより海老の殻の風味が強烈だった。生ビールがうまかった。

 大賑わいの代々木公園からは早々に退散して、世田谷区は池尻を目指す。今日は旧・世田谷区立池尻中学校をリノベートした世田谷ものづくり学校で世田谷パン祭りが開催されていると聞いてやってきたのだ。到着してみると、会場の前に長蛇の列ができていて愕然とする。パンは体育館の中で販売されているのだが、その体育館に入るためには列に並ばなければならないのだ。その列の長さと、並んでいる人がどことなくおしゃれであることに気が引けた僕と知人は、列には並ばず、グラウンドに出た。そこにはステージがあって、ずっとパンの歌をうたっている人がいた。グラウンドにも出店がいくつか並んでいて、そこでアイスコーヒー、タンドリーチキン、それにカレーパンを購入する。

 グラウンドにはテントが出ていて、その中にあるテーブルで食事や休憩ができるようになっているのだが、僕たちもここにいていいのだろうかと不安な気持ちになる。そして、その「ここにいていいのだろうか」感とは少し別の話になるのだけれど――僕はパンに思い入れがあるわけでもなければ、パンに対するこだわりがあるわけでもなく、生活の中にパンがあるわけでもない。「毎朝パンを網で焼いて食べてみよう」と思い立って、しばらくそんな朝を送ったことはあるのだが、結局飽きてしまってやめている。僕の生活の中に何かが根づくなんてことがあるんだろうか。そんなことを思いながら、美味しそうにパンを頬張る人たちを眺めていた。

 会場の入り口では、『TO mag』の川田さんが『東京パンMAP』を販売していた。買い求めてさっそく広げてみると、すぐ近くに「シニフィアンシニフィエ」というお店がある。ここに行ってみようと伝えると、「めっちゃ有名な店だよ。テレビとかにも出てるよ」と知人が言う(同じくらいテレビを見ているはずなのに、どうして知人だけ店のことを覚えているのだろう)。中に入り、1/4サイズにカットされたパンを2種類購入する。2つで1800円弱という値段に動揺したけれど、動揺を悟られないよう平然とした顔で会計を済ませる。

 17時過ぎに帰宅して、エスプレッソを淹れる。イタリア滞在中、毎日誰かが淹れてくれたエスプレッソを飲んでいて、意外と簡単だということに気づいたので、空港でマキネッタを購入してきたのだ。こうしてエスプレッソを淹れる生活もいつまで続くだろう。晩ごはんは椎茸とえのきとしめじの入った鍋にした。もうすっかり秋だ。鍋を食べ終えると、少し風邪っぽいという知人は21時過ぎには眠ってしまった。灯りの半分消えた部屋で、本を読んで、今は日記を書いている。