朝8時に起きて、ガスコンロに網をのせて餅を2個焼く。ずっとコンロの前に立ち、餅が焼ける様を見守っていた。ようやく焼きあがった餅を知人と食す。知人が誰かにもらってきた餅なのだが、わざわざ自宅でついた餅なのだという。一口食べてみると、濃密さが違う。これは年取ってからは一人じゃ食べれないな。横で掃除機持って待機してもらわないとダメだ。そんなことをつぶやいていると、「何でそんな真剣に餅と向き合ってるの」と知人は呆れ顔だ。餅を食べるとイチゴを食べた。紅白で目出度い気持ちになる。

 今日は仕事がないので気が楽だ。知人を送り出すと、風呂に湯を張って中田考『私はなぜイスラーム教徒になったのか』(太田出版)を読む。紀伊国屋書店で平積みになっていて、「ああ、ときどきニュースで見たあの風貌の」と、何となく手に取ったのだ。巻末に「教え子が語る中田考」というのがついているのだが、そこで語られるのは僕がニュースで見て感じていた通りで笑ってしまう。「目がすわっていて、どす黒い空気がまとわりついているようで、かかわらないようにしようと思っていました」、「こんな怪しい世界があるのかとカルチャーショックでした」、「講義が全然面白くない」など、忌憚のない意見が語られている。しかし、それらはすべて第一印象であって、彼らは中田考という存在に惹かれてイスラームを学び、ムスリムになっているのが印象的だ。

 16時、新宿「らんぶる」でブレンドを1杯。そこから西口にまわり、マップカメラでライカを眺める。眺めているといよいよ欲しくなってくる。物欲にまみれている。セブンイレブンでおにぎりを買い食いし、渋谷に移動してO-EAST。今日はZAZEN BOYSとSOIL&"PIMP"SESSIONSのツーマンがあるのだ。会場に入りステージを観ると、先にZAZENがやるようだ。ドリンクチケットをビールに交換し、追加でもう1本缶ビール(600円)を買っておいてフロアに戻る。広々とした会場で段差もあり、最後列からでもステージがよく見渡せる。はあ楽しみだと缶ビールを開けるタイミングをうかがっていると、18時58分、歓声があがる。特に出囃子を流すこともなく、定刻よりも早くにZAZEN BOYSのメンバーがステージに登場し、ライブが始まる。

 ZAZEN BOYSを観るのは、新年としては今日が最初だ。その音が僕の身体に刻まれ過ぎているので、1音目を聴いただけでも涙がこぼれそうになるところはあるのだが、最初の数曲は「いつもの流れだ」と頭のどこかで思っていた。「サイボーグのオバケ」、「はあとぶれいく」、「Himitsu Girl’s Top Secret」、「Honnoji」という流れは、「次はこうくるだろう」とある程度予測がつく流れだ(予測がつくから駄目だということではない、念のため)。だが、5曲目からテイストが変わる。聴きなれないイントロから始まったのは「Maboroshi In My Blood」だった。

 この1年、ZAZEN BOYSの出演するイベントにはときどき足を運んでいたけれど、ワンマンは観れずにいたのだが、少なくともイベントに出演するときには(ここ数年は)演奏しなかった曲だ。それが、アレンジを変えて演奏され始める。それはこの1曲にとどまらず、「SEKARASHIKA」、「6本の狂ったハガネの振動」、「FridayNight」と続く。まあ「FridayNight」は比較的演奏される曲だが、「Maboroshi In My Blood」、「SEKARASHIKA」、「6本の狂ったハガネの振動」そして「FridayNight」という流れには意表をつかれる。何より、そのぎらつき、ざらつきに驚かされる。

 「Maboroshi In My Blood」を歌い始める前に、向井秀徳はボヤくように「真っ赤な残像が全然消えん」と言っていた。それは歌詞の一節なのだが、そうぼやく姿が何より印象的だった。その曲は10年以上前の曲だ。「Maboroshi In My Blood」という曲を書いた当時は、マボロシを見る「私」をどこか俯瞰していたはずだ。だからこそ歌詞になったわけだが、ステージに立つ向井秀徳の姿は、いよいよマボロシと向き合っているのだというふうに見えた。いや、その曲を選んで歌っている時点で、今だってもちろん俯瞰しているのだとは思うのだけれども、10年前とは酩酊の具合が違っている。今の向井秀徳には何が見えているのだろう。もっとライブを観なければという気持ちになる。

 ライブを観たあとは新宿に戻った。思い出横丁でホッピーを飲んでいると、知人から「意外と早く仕事が終わった」と連絡がある。ちょうど隣の席が空いていたので、そこをキープさせてもらって知人を待ち、乾杯する。知人と思い出横丁で飲むのは初めてだ。23時に店を出て、ジャニーズのライブを観るために夜行バスに乗る知人を見送り、ひとりアパートに戻る。窓を閉めるのを忘れていて、アパートはすっかり冷え切っていた。