今月末が締め切りだと思っていたのに、確定申告は今日が期限だと知る。だから皆つぶやいていたのか……。もう間に合わせるのは諦めたものの、領収書を集めて計算を始める。毎年のことだがどれだけ旅しているのかと、我ながら思う。交通費だけでも相当な額だ。

 夜、思い出横丁「T」ヘ。隣の席に既に何杯も飲んできたと思しき大学生がやってきてホッピーを注文する。ここのホッピーはセットなので、“中”と“外”が一緒に出てくる。中はおよそ3杯分なので、3回に分けてグラスに注ぐくらいがベターなのだが、彼らは一気に“中”をグラスに注いでいる。当然、ジョッキは焼酎だけで一杯になるのだが、「さすが思い出横丁」なんて笑いあっている。

 特に調べたことはないが、ホッピーを飲むというのは戦後の関東の文化だろう。僕の地元ではホッピーを出す店はそう多くないはずだ(地元ではそんなに飲んだことがないので不確かだが)。ただ、東京に出てきてからも、しばらくはホッピーとは無縁だった。その存在を知り、飲み方を知ったのは坪内さんに出会ってからだ。

 ホッピーに限らず、酒を飲む時のマナーの半分は坪内さんに教わった気がする。あとの半分は向井さんだ。父親は基本的に家でしか飲まなかったし、身近な場所に酒場はなかった。そうして振る舞いを教えてくれる人に出会っていなければ、僕も“中”を全部ジョッキに注いでしまっていたことだろう。そう考えると、しかるべきタイミングで先生と呼べる人たちに出会えたのは何と幸福なことだろう。

 帰り道、酔っぱらって取った写真たち。撮った記憶は残っていない。