朝7時に起きて、『S!』誌の構成に取り掛かる。7割ほど進んだところで身支度をして、東京駅へと向かった。高速バスに乗り込んで、最初の休憩所に着く前には構成を完成させて、メールで送信する。昨晩収録したものを、睡眠時間を削って無理をすることもなく、普通に酒を飲みにも出かけて、翌日の午前中に送信できたことになる。なかなか気持ちがいいことだ。

 14時半、高速バスはいわき駅に到着した。まずは駅前の「ラトブ」1階にある寿司屋に入る。回転寿司屋だが、まだレーンが回っているところを見たことがない。刺身で数品食べたのち、メヒカリを食す。うまし。会計を済ませて、日が暮れるまで喫茶店で仕事を進める。『まえのひを再訪する』に使用する写真の選定など。

 17時、MUSIC&BAR「QUEEN」へ。2年前の3月に『まえのひ』を上演した店であり、1年前の3月に再訪した店でもある。今年の3月にいわきを訪れたときも訪ねるつもりでいたのだが、その日は看板に灯りがともっていなかった。今日も看板は暗いままだが、中からは楽器の音が漏れてくる。今日はライブだろうかとスケジュールを確認してみたが、今日はライブの予定はないはずだ。

 スタッフの男性が出てきたところで話を訊ねてみると、今は通常営業はしておらず、ライブがある日にだけ営業しているとのことだった。今日は一般向けではなく、発表会が開催されるとのこと。リハーサル中のお店にお邪魔して、マスターと話をさせてもらう。『まえのひを再訪する』という本を出して、その中でこのお店のことを書かせてもらいたい――その旨を伝える。切手を貼った封筒を一緒に渡して、修正が必要な箇所があれば後日送っていただくつもりだったのだが、「今読みますよ」と言ってくれた。

 読んでもらっているあいだ、ずっと緊張していた。最後まで読めばそんなことはないのだが、途中に少し、失礼だと受け止められかねないという箇所がある。それで余計に緊張していたのだが、マスターは怒ることもなく、「面白かったです」と言ってくれてホッとする。

 この店はライブがある日だけの営業になってしまったけれど、近くに新たなバーをオープンしたのだとマスターが教えてくれたので、飲みに行くことにする。パルマ産プロシュートを注文すると、ちゃんとドライフルーツが添えられている。ボトルで注文した赤ワインをのんびり飲んでいると、リハーサルの合間を縫ってマスターが顔を出す。

 他の客が注文した“おやじのおじや”を作りながら、マスターがこう語りだす。あのとき、波の音を使ってましたよね。今でもおぼえてる、あの波の音。朝早くに海まで行って、録ってきたんでしたよね? それで、CDJが何台も並んでいてーーいや、感動しました。あの音1つで、場が変わりましたもんね。マスターはしみじみ振り返る。夏にまた来ますと伝えて店を出て、終電に揺られて東京に帰った。