9時に起きてジョギングに出る。今日は寒かった。昨日のおでんの残りで朝食を取っていると、テレビで「今日はブラックフライデーだ」と言っている。アメリカでは11月の第4金曜日は「ブラックフライデー」と呼ばれ、クリスマス・セールが始まる日として賑わうのだという。この手のやつだとイースターが先に流行ると思っていたけれど、こんなものまで輸入されてきた。調べてみると、ブラック・フライデーは感謝祭(11月の第4金曜日)に関連したイベントであるという。ールのほうだけ輸入するのが日本らしくもある。

 この日は気になるニュースがいくつかあった。一つは富山で「氷見寒ぶり宣言」が出たということ。しっかりした大きさの脂ののったブリが安定して出荷できる見通しが立った時に出すそうだが、去年は不漁で宣言が出なかった。一番好きな魚はぶりなので、今年は冬が楽しみだ。もう一つ、フランスのモンペリエにある高齢の宣教師が暮らす施設に武装した男が押し入り、1人が殺害されたというニュースも気になる。テロなのだろうか。モンペリエは、先月チェルフィッチュが公演した街だ。

 14時過ぎ、池袋へ。まずはビックカメラでフィルムを現像に出す。この1ヶ月で数本撮っていたけれど、現像に出しそびれていた。それから、暗い気持ちで豊島区役所に向かう。今回は税金や保険料の話で行くわけでもないのに、区役所に行くというだけで憂鬱になるようになってしまった。出版社から「マイナンバーを提出するように」という連絡が何度か届いているけれど、マイナンバーカードの受け取りをサボったまま1年近く経ってしまっている。そろそろ何とかしなければとやってきたのだ。

 窓口でその旨を伝える。既に区役所には保管されておらず、カードを取得するためには改めて申請書が必要だという。が、その申請書を発行するためにも数週間かかるそうだ。ただ、マイナンバーを知るだけなら住民票にも載っているということなので、マイナンバーの記載された住民票の写しと、申請書をそれぞれ発行してもらうことにする。「お渡し口」と書かれた窓口まで案内されて、整理番号を手にして待つ。あたりを見渡すと、中国人の姿が多いことに気づく。中国語が話せる職員がいて、応対している(日本語でやりとりする中国人もいる)。そうか、留学生であれ何であれ、豊島区に住んでいる以上は区役所で手続きが必要なのか。僕は外国の役所で手続きをすると想像しただけで頭が痛くなるので、尊敬する。

 住民票の写しはすぐに用意されたけれど、マイナンバーの申請書のほうはなかなか呼ばれなかった。「××番の整理番号をお持ちのお客様」という声がずっと繰り返される。昔は「お客様」と読んでいただろうか。僕は区民であってお客様ではないはずなのだけどと違和感を感じてしまう。区役所が新しい庁舎になり、その新しさに目を奪われていて気づかなかったけれど、受付をしているスタッフや書類の受け渡しをするスタッフは公務員っぽくない雰囲気の人たちだ。よく見ると、会社の名前が書かれたネームプレートを下げている。業務の一部は民間に委託されていたのか。調べてみると、時給1300円で求人が出ていた。

 30分ほど待ったところで、ようやく番号が呼ばれる。渡されたのは申請書――ではなく、「通知カードを再交付申請をされた方へ」という紙だ。マイナンバーカードの申請に必要な書類は数週間後に自宅に簡易書留で届くので、「確実にお届けできるように以下の点について、ご確認ください」とある。そこには「転居届を出している方は解除してください」「「可能な限り表札を出してください」など、ごく普通のことが書かれているだけで、どうしてこれを受け取るだけで30分も待ったのだろうと首を傾げたくなる。が、それもこれもすぐにマイナンバーを受け取りにこなかった僕のせいなのだから、文句を言うわけにもいかないのだ。

 現像された写真を受け取り、G大学図書館に立ち寄ってから帰宅する。アパートに帰る頃には日が暮れていた。昼食――と言ってももう17時だ――として麻婆豆腐丼を食したのち、再び出かける。今日は20時から、アーツ千代田3331東葛スポーツの公演を観るのだ。東葛スポーツの公演は缶ビールと缶チューハイの販売があるので、いつものように3缶買って開演を待つ。今回は短編集のような構成だ。序盤のヒラリー×トランプの討論会をサンプリングした短編や、ケーシー高峰風に世相をイジる短編を観ていると、主宰の金山さんがワイドショーにコメンテーターとして出演して放言を繰り返す姿が観たくなる。

 しかし、劇が進むにつれてそうした印象は薄れてゆく。特に最後、『何者』をサンプリングした「認活(認可保育活動)するママの奮闘」がテーマの短編を観ていると、特にそう感じる。今日の公演の前半は――というより、これまでの東葛スポーツの公演は――時事ネタをイジる角度が絶妙で、切れ味も抜群だった。しかし、最後の「認活(認可保育活動)するママの奮闘」をテーマとした短編は、(もちろん面白くもあるけれど)「切れ味の良い時事ネタいじりを観た」では済まないものがある。この切れ味の悪さは、あまりにも現実的だからだろうか。笑って済ます話ではないからだろうか。この切れ味の悪さが、今後の東葛スポーツにどんな影を落としてゆくのだろう。

 そんなことを考えながら会場を後にする。アーツ千代田3331で観劇したあとは、いつも上野まで歩いて「カドクラ」という店で飲むことにしている(以前、東葛スポーツの作品で触れられていた店だ)。ホッピーとハムカツ、それにポテサラを注文する。相変わらず大盛況だ。しばらく飲んでいると、隣によれよれした老人男性がやってくる。老人はチューハイと煮込みを頼んで、煮込みの汁を啜っている。男性を挟んで向こう側には若い男の二人組が飲んでいたのだが、老人が汁を啜っている姿を「おい、見ろよこの爺さん」といった様子でニヤついて眺めている。その姿を観ていると無性に腹が立ってきて、僕はその2人を睨みならが飲んでいた。二人組は僕の視線に気づくと、「お前、狙われてるぞ」とひとりが笑い、もうひとりがお尻を隠すような仕草をする。睨んでいるのも馬鹿らしくなって店を出た。どんどん居心地が悪くなるのだろう。

 現像した写真たち。