『月刊ドライブイン』(vol.01)編集後記

 春という季節がやってくると、何があるわけでもないのに少し浮かれた気持ちになってしまう。それと同時に、かつて自分がこの季節に感じていたことを思い出すことがある。

 僕が入学した大学にはSという教授がいた。S教授がいたからその大学を選んだのだけれど、入学した翌月には体調不良で講義は休講となり、半年後にS教授は帰らぬ人になってしまった。だから講義を受けたのもほんの数回だけなのだが、鮮明に覚えている話がある。講義の最後に、S教授はこう語った。

「皆さんは、たとえば日本の近代ということについて語りたいと思うかもしれないけれど、それは一つ一つの積み重ねの上にしか語ることはできないんです」。その頃の僕は今より若く、たとえば日本の近代というようなことを――つまりは大掴みなことを――語りたいと思っていたので、その話が余計に記憶に残っているのだろう。あの頃はその言葉を理解できなかったけれど、今の僕には、S教授の言っていたことがよくわかる。

 最初にドライブインを巡る旅に出たのは二〇一一年の夏のことだ。それからもずっとドライブインのことは頭の片隅にあった。それは、ドライブイン一軒一軒に対する関心ももちろんあるけれど、ドライブインについて考えることで、たとえば日本の戦後の姿(のようなもの)が浮かび上がってくるのではないかと思ったのだ。戦後という時間も七〇年以上が経ち、それをひとくくりに語るだけのリアリティを僕は持っていない。でも、街道沿いに残るドライブイン一軒一軒の物語を拾い集めることで浮かび上がってくる風景があるのではないかと思ったのだ。

 だからドライブインについてはいつか一冊にまとめたいと思っていた。思っているうちに六年が過ぎてしまった。その間に閉店してしまったドライブインは何軒もある。これ以上待っていたら、いよいよ記録できなくなるかもしれない。そんな焦りもあって、『月刊ドライブイン』という雑誌を立ち上げることにした。雑誌と言っても、書いているのは僕ひとりで、あまり雑誌的なものではないと思う。これはいつか一冊にまとめるための暫定的な記録であり、表紙も極力シンプルなものにした。雑誌としてスタートさせたからには、少なくとも十号までは続けたいと思っている。

『月刊ドライブイン』(vol.01)
2017年04月10日発行 44頁 A5判

【価格】500円(税込)
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