MUM& GYPSY 10th ANNIVERSARY BOOKのこと

 マームとジプシーが10周年を迎える――それを聞いたのは2月中旬のことでした。藤田さんから電話があり、「マームとジプシーは今年で10周年を迎えるんですけど、今年のゴールデンウィークに新作をやろうと思っていて、そこに向けたインタビューをお願いしたい」と伝えられたのです。

 そこで「10周年」という言葉を聞いた瞬間から、思い浮かんでいたことがあります。それは「10周年にあわせて本を作るのはどうだろう?」ということでした。その提案が実を結んで、7月15日、『MUM& GYPSY 10th ANNIVERSARY BOOK』が刊行されます。これはマームとジプシーが発行する書籍で、デザインは名久井直子さんが手がけています。詳細はこちらのURLより確認いただけます。

https://www.10th-mum.com/shop

 目次を見てもらえればわかるように、藤田さんにだけでなく、マームとジプシーの作品によく出演する役者の皆に話を聞いています。なぜ役者の皆に話を聞こうと思ったのか、それには理由があります。今年の春、『カタチノチガウ』という作品の台湾公演に同行した際に、印象的なことがありました。リハーサルが行われていた時、藤田さんは稽古を中断させて、こう語ったのです。

 「役者さんっていうのは演じれちゃう人たちだから、『藤田さんにそれをやっていいと許されたこの世界の中で、許されたからそれをやる』っていうことにすぐなるじゃん。でも、それって相当な嘘だから。そうじゃなくて、それをやるためには自分としてどういう感情的なハードルを越えなければいけないのかってことを考えて欲しいんだよね。そうしないと嘘を観てる感じになっちゃうんだよ」

 今日公開された藤田さんのロング・インタビューの中にも、「役者とは何か?」という話は出てきます。マームとジプシーは藤田さんの作品を上演するカンパニーであり、役者の皆は藤田さんの言葉を語るしかない存在ではあります。でも、上の言葉にもあるように、「その台詞を渡されたからしゃべる」ということに対して、藤田さんは違和感を抱き続けてきたのではないかと思います。ただ台詞を渡されたから語るのではなく、「それを語るためにはどういう感情的なハードルを越えなければいけないのか」ということを考え続けることを、役者の皆は求められてきたのではないか、と。

 だとすれば、です。マームとジプシーの10年間の歩みを考えるためには、役者の皆がどんなことに思いを巡らせてきたのか、聞いておく必要があるのではないかと思いました。この10年間、どんな時間があり、どんなことを考えて過ごしてきたのか聞いておきたいと思ったのです。そうすることで、マームとジプシーの姿をより明確に捉えることができるのではないか、と。

 ただ、この本はマームとジプシーの10年間を振り返っただけの本ではありません。もちろんこれまでの歩みを振り返っている部分もあるけれど、この本を通じて浮かび上がらせたいと思ったのはマームとジプシーの「今」の姿であり、これから先、マームとジプシーがどんな未来を展望しているのかということです。

 『MUM& GYPSY 10th ANNIVERSARY BOOK』は一般の書店には流通せず、マームとジプシーの10周年ツアーの会場か、もしくは通販でのみお買い求めいただけます。近日中に通販の予約を受け付けるようです。読んでいただけると嬉しいです。