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6時半に起きる。海に遊びに行く知人を見送ったのち、僕も身支度をして出かける。初めての北陸新幹線だ。コンセントが各座席に用意されていて驚く。夏休みだから家族づれが多く、肩身がせまい気持ち。ゆで玉子と野菜スティックを食べたのち、ここ数日読み込んだ資料でマーカーを引いた箇所をパソコンに入力する。あっという間に金沢に到着する。特急に乗り換え、七尾駅で下車。レンタカーの店までひたすら歩く。すぐに汗が吹き出し、長ズボンで来たことを後悔する。炎天下を15分歩き、ようやくレンタカーの店にたどり着く。
クルマを走らせ目指したのは志賀町である。ここからは月刊ドライブインの内容にさわるので詳細は省く。最近はAPPLE MUSICの新譜から気になったものを聴いたりしていて、つい最近never young beach『A GOOD TIME』を聴いた。自宅で聴いた時には、悪くはないけれど、この曲を聴くには年を重ねてしまったと感じていた。「100年後も1000年後も/夏のドキドキは止まらないだろう/悩んでいる暇はないでしょう/カブトムシに笑われちゃうわ」という歌詞で走り出せるほどの若さは失ってしまったという気がしたのだ。その思いは変わらないけれど、海沿いをドライブしながら聴いていると、なんだか気分がスカッとする。
夕方になって民宿へ。シャワーを浴びたのち、集落を散策する。あくまで目的はドライブインの取材だけれども、志賀町という町名には聞き覚えがあった。ここはH・Sさんの地元だった気がする。そう思って本人にメールを送ってみたらやはりそうで、せっかくだからH・Sさんが生れ育った集落にある民宿を選んだ。「生まれた時から海が目の前にあるような生活だったんです。家からも海が見えるし、漁師の人が多い町だったというのは大きい気がします」。H・Sさんはインタビューでそう語っていた。でも、まさかこんなにも港町とは想像していなかった。お台場でインタビューカットを撮影したとき、「これは海にカウントしないですね」と笑っていたのも頷ける。
防潮堤には釣り人が大勢いた。僕はしばらく夕暮れの海を眺めて過ごす。日が暮れるにつれて、停泊している漁船がチカチカ光り出す。漁に使う照明なのだろう。漁港のすぐそばにまわらない回転寿司屋がある。民宿なので一泊二食つきなのだが、H・Sさんにこのまわらない回転寿司屋を勧めてもらっていたので、「料金は同じでいいので、夕食はナシで」とお願いしていた。甘海老、しいら、生サバ、カワハギ、それにイカを食べる。どれも地元で採れたネタである。ノンアルコールビールを2杯飲んだ。
最後に岩海苔の味噌汁を飲んで店を出た。外はもう真っ暗だ。街灯は少なく、クルマが通る気配もなかった。急に不安な気持ちになる。僕は山間の村で育ったせいか、もともと海が怖いところはあるけれど、夜の海はいよいよおそろしくなる。海にさらわれてしまっても、誰も目撃者はいないだろう。ソワソワした気持ちで民宿に戻る。部屋には窓がある。幅のある窓枠だったので、そこに腰掛け、ノンアルコールビールを飲みながら海を眺める。すぐそこに海が広がっているのだ。
しばらく景色を眺めていると、遠くに見える光の一つ一つが何であるのか気になってくる。その正体を突き止めるべく、23時になってレンタカーを走らせる。一つは送電線の航空障害灯であった。もう一つはきっと志賀原発だろうと、志賀原発までクルマを走らせたのだけれども、近くに行ってみるとささやかな光しか発していなかった。僕が見ていたのは灯台の光だったようだ。日付が変わる頃になって民宿に戻り、もう一度窓辺に腰掛け、月刊ドライブインの原稿を練る。