ハッと目をさますと6時9分という数字が飛び込んでくる。5の時半には起きるつもりだったのに、久しぶりの飲酒でめざましもかけずに眠ってしまった。どうしようかと瞬時に考える。布団の横にあるリュックを確認すると、酔っ払いながらも「準備を済ませて眠らなければ」と思ったのだろう、旅支度は完璧だ。シャワーを浴びるのは諦めて、歯磨きだけしてアパートを出る。7時10分品川発のひかりに乗車する。数日前の時点でのぞみはすべて満席だったけれど、ひかりのグリーンであれば空席があったのだ。セブンイレブンで買っておいた野菜スティックとゆで玉子(2個)食べたのち、昨日のテープ起こしを進める。

 11時19分に岡山に到着し、倉敷へ。駅前のレンタサイクルを2日間の利用で借り(1400円)、まずはホテルに荷物を預けにいく。ホテルにたどり着いてみると無料で貸し出している自転車が置かれていた。まずは倉敷市立中央図書館で『タウン情報おかやま』のバックナンバーを閲覧する。1990年1月号から順番に見ていく。掲載されているストリートスナップの服装や、読者からの投稿に時代を感じる。14時、小腹が減ったところで図書館を出て、例によって「ふるいち」で肉ぶっかけうどんを食す。お盆だというのに、お盆だからか、大賑わいだ。

 早くシャワーを浴びたいところだが、15時にならないとチェックイン出来ないというので、古本屋に遊びにいく。ビールか麦茶だとどっちがいいですかと訊かれ、今日は酒を控えるつもりでいたのに、迷わず「ビールでお願いします」と答えてしまっている。ビールとコップを運んできて、「昼から飲むビールは美味しいですねえ。まあいつ飲んでも美味しいですけど」とT・Mさんは言う。心から頷く。昼から飲むビールはおいしく感じる。このお店で飲むと余計に美味しく感じるのはなぜだろう(迷わず「ビールでお願いします」と答えてしまったのはそのせいでもある)。30分ほどぽつぽつ話したのち、Kさんのお墓の場所を聞く。Tさんもまだお墓に行ったことはないらしく、おおまかな場所を教えてくれる。お線香までいただいてしまって、店を出る。

 コンビニでアサヒスーパードライを買って、お墓を探す。「遊具のある公園のそば」と聞いていたので、まずは遊具のある公園を探す。それらしき場所は見つけたものの、お墓を見つけることができなかった。遊具のある公園のすぐそばにも墓地があり、少し離れた場所にも墓地が広がっている。一体どこにあるのだろう。新しい墓石を探しては名前を確認する。角を曲がると猫が寝そべっている。ずいぶん警戒心のない猫だなと思ってよく見ると、蟻がたかっており、目が垂れ落ちている。手を合わせてお墓を探し続けたものの、30分経っても見つけることができなかった。

 諦めようかと思ったけれど、Tさんに電話。すると「店を閉めて私も行きます」と言ってくれる。ビールはすっかりぬるくなってしまったので、待っているあいだにもう1本購入する。T・Mさん合流すると、お墓はすぐに見つかった。僕は新しい墓石を探していたけれど、まだ墓石はなく、小さな木の小屋がKさんの仮の新居であった。こういう風習があることを僕は知らなかった。メビウスがお供えしてある。線香をあげて手を合わせる。Tさんが帰ったあとも僕はしばらくそこにいて、もらった線香を何度も焚く。「6月/June」「7月/July」そして「自問自答」を聴きながら、ゆっくり時間をかけてアサヒスーパードライを飲んだ。

 再び図書館に戻り、91年1月号から92年12月号までの『タウン情報おかやま』を精読。19時に閉館を迎える。ホテルにチェックインしてシャワーを浴び、20時にTさんと待ち合わせ。「良かったら飲みませんか」と誘ってもらっていたのだ。久しぶりに飲みたいと思っていたので嬉しい。この時期に駅前まで出てくることがないというTさんは、人の多さに目を丸くしている。お気に入りだという焼き鳥屋「鳥好」に入り、生ビールで乾杯。最初のうちはグループ客が多く、Tさんも僕も声が小さいので、なかなか会話が進まずおかしかった。

 やはりKさんとOさんの話になる。2杯目からは日本酒にした。金陵という香川の酒だ。倉敷の地酒もあるけれど、それを提供する酒場は少ないのだという。「東北のお酒も美味しいですけど、このあたりのモヤモヤした味がする日本酒も嫌いじゃないんです」とTさんが言う。たしかに、東北の酒は美味しいし好きだけど、たまに美味しすぎると感じることもある。それで思い出したのはKさんが言っていたという言葉だ。太平洋側の海を訪れたとき、Kさんは「太平洋は下品だ」と言ったのだという。そのエピソードを伝えると、Tさんは『蟹と歩く』の話をした。『蟹と歩く』の中で、海が好きではなかったと明かされるシーンがある。「あのシーンを観て、『そう、私も海は好きじゃないんだよKさん』って伝えたかったけど、もう伝えられないんですよね」。グラスを傾けながら、Tさんはしみじみそう語る。