朝7時に起きて、手紙を書く。昨日訪れたドライブインへの取材依頼。どうしてお話を伺いたいと思ったのか、なるべく伝わるように手紙を書く。1時間ほどで書き終わり、池袋へ。まずは整体で施術を受けたのち、土日も営業している豊島郵便局から速達で手紙を発送する。どうにか取材できますように。

 15時過ぎ、高円寺へ。レインコートを携えて、財布とケータイはジップロックに入れて万全の態勢だ。コンビニでノンアルコールビールを6缶買って、キタコレビル。今日は悪魔のしるし「搬入プロジェクト」を観にきたのだ。高円寺の北中通商店街にあるキタコレビルに到着してみると、すでにビルの屋上には物体が置かれている。搬入プロジェクトとは、巨大な物体を搬入する、ただそれだけのパフォーマンスだ。最初は建築現場の荷揚げ屋をパフォーマンスとして見せるものとして始まったのだが、各地のアートフェスティバルなどに招聘されているうちに、偽祭的な性格を帯びるようになる。

 開始時刻が近づくにつれて、ビルの周りに人だかりが増えてくる。見知った顔がいくつもある。16時過ぎ、屋上に置かれていた巨大な物体が下される。今日は阿波踊りがあるので、いつもより人通りも多く、通行人は皆立ち止まり、「なにやってるんだ?」と振り返る。屋上から降ろし終えると、皆で物体を担ぎ上げ、建物の中に搬入する。かなりキワドい設計をしてあるので簡単には入りきらず、途中で一旦休憩となる。舞台監督のさめさんが「皆で本気出してねじればいけるんじゃない?」と言っているのがおかしい。

 搬入プロジェクトは、搬入する建物と物体の模型を作り、ギリギリ搬入できるように設計されている。ただ、入り口に想定外の出っ張りがあり、そこに引っかかってしまっているようだった。しばらく膠着状態が続く。目の前にいる若い男が連れの女性に「この時間を観てるのがダレるんだよね」「京都で観た時もかなり時間がかかったから、途中で観るのをやめて、結局30分ぐらいしか観なかった」と大声で話している。そんなふうにしか物事を見れねえのかと腹立たしくなり、何度か舌打ちをする。後日、その男が誰だったのか知る。その人のつくる作品を観ることはないだろう。

 最終的には建物の出っ張りを電鋸で切断し、物体自体も一部を削るという決着を見せる。まさか建物を削ると思わなかったので笑ってしまった。搬入が終わったあとも、しばらくビルの前で立ち話。ちょうど阿波踊りが始まる時間だったので、駅前に戻ってみるが結構な人出で、落ち着いて見物できそうになかった。チラ見して祭囃子を聞いただけで引き返し、「コクテイル」へ。店主のKさんが「どうしたんですか」と言う。阿波踊りにくるような人間とは思えなかったのだろう。東京に出てきて15年経つが、阿波踊りの夜に高円寺を訪れるのは初めてだ。通りを行き交う人を肴に、ハートランドを2本飲んだ。なかなか贅沢な時間だった。