午後、千駄木へ。物件の内見。一階がお米屋さんで精米機がある。僕が借りようとしている部屋はその二階にあり、「ハシモトさんはご自宅でお仕事されるということだったので、いちおう音をご確認いただいたほうがよいのでは」とおっしゃっていただき、二度目の内見にやってきたのだ。精米機が動き出す瞬間は多少音が響くが、まわり始めればさほど気にならない程度。しかも、精米機があるのはキッチンの真下なので、音で気が散って仕事にならないということもないだろう。「問題ないです」と伝える。ここから審査に入る。ああ不安だ。契約者は僕ではなく知人で、僕はあくまで同居者だが、僕の身の上では審査というものをパスする自信がない。

 夕方、渋谷へ。まずはJINSで金氏さんの展示を観る。少し歩いて「SPBS」を覗く。『月刊ドライブイン』を取り扱っているお店だが、POPまでつけてくださっている。3号と4号しか並んでおらず、「えっ、納品し忘れていたっけ」と思ったが、すでに完売したとのこと。嬉しいかぎり。19時には新宿に移動して、数少ない友人であるA・Iさんと待ち合わせ、新宿3丁目の「K」へ。まずは観てきたばかりの金氏さんの展示の話。「金氏さんの展示をやってる」と教えてくれたのもAさんなので、感想を訊かれる。展示を観ても、僕には「なんだこれ」という言葉しか浮かんでこなかった。それは決してネガティブな意味で言っているのではないのだけれど、僕の中には美術について語る言葉がないのだ。「たしかに、観ただけじゃわかんないもんね」とAさんは言う。「金氏さんは、展示のリーフレットに載ってるインタビューでも話してるけど、よく『孤独だ』ってことを言うんだよね。最近はいろんな仕事をしてるけど、結局はアトリエに帰ってひとりになるから、その時間は孤独だって」。それはきっと、作品というものをつくる人すべてに共通しているのだろう。

 飲んでいると、「あの店員さんは良い人ですね」とAさんが言う。たしかに、僕もその店員さんはとても良いと思っていた。特に用事がないときでも、店内をぐるりと回遊する。客が注文したいときにパッと頼めるようにそうしているのだろう。それも客の様子を伺いながら歩いてまわるのではなく、客に気を遣わせないように、何か用事があって歩いているように移動している――そんなことを話すと、「ハシモトさんはやっぱり過剰ですね」と言われる。それまで僕は店員さんに視線を向けてはいなかったのに、そんなふうに観察していたからだろう。「言葉ってことに対しても過剰ですよね。話せる言葉がないと思ったら一切言葉を交さなかったりするし、こないだ飲んだときに『スペインで飲んでたとき、すごく感じの良い店員さんがいたから持ってたお金をほとんどチップで渡した』って言ってたのも過剰ですよね」。言われてみれば過剰なところはある。23時過ぎに店を出て、明治通りを歩いて帰った。