朝6時に起きる。どんよりした天気だ。7時過ぎにジョギングに出て、不忍池をぐるり。朝の上野公園にはお年寄りが多い。よれよれのお父さんが新聞を読んでいる。あのお父さんが、こんなふうに朝の公園で読んで面白いと思えるものを書きたいとぼんやり思う。そして、そういう言葉のほうがまっすぐ書けるような気がする。帰宅後、豆腐とわかめの味噌汁を作り、朝刊を読みながら朝食。昨日のうちに『月刊ドライブイン』を取り扱ってくださっているお店に新刊の案内を送っていたのだが、続々と注文が届いている。メールを返信しているうちにお昼近く。キャベツと酒盗のパスタを茹でてお昼ごはん。

 午後、先週取材したドライブインのテープ起こし。16時に国立国会図書館に行き、調べ物。インターネットで調べた範囲で、うっすら書けそうな知識は得られていたのだが、「それで原稿を書くのは筆が汚れるのでは」という気持ちになり、こうしてやってきた。あれはもう7年前、久しぶりにリリーさんにお会いしたときに、最近どんな仕事をしてるのかという質問に答えると、「橋本君はあれだけの文章が書ける人なのに、そんな仕事を引き受けていたら筆が汚れるから、今すぐやめなさい」と言われたことがある。その言葉がずっと胸に刺さっている。

 複写した資料を眺めながら丸ノ内線荻窪「T」。打ち合わせをしたのち、恵比寿に移動して富士そばに入り、ゆず鶏ほうれん草そばを3分で食す。このおそばをよく食べているけれど、冷やがあったとは知らず驚く。急いで「BATICA」に到着すると開場5分前で、お客さんが整理番号順に並んでいるところ。友人のA・Iさんと待ち合わせ、入場。気合いを入れてチケットを取ったので、整理番号は10番だ。初めてやってきた会場だが、かなり小さな箱だ。一番後ろに1つだけソファが置かれていたので、そこに座り、開演を待つ。あっという間に会場は満員になり、ソファに座っていると視界がほとんど遮られる。こうしているとライブを待っているのではなく、輸送船にでも乗っているような感じになりますねと言うと、私も、最近読んだ小説にこんなシーンがあったような気がするなと思ってたとAさんが言う。

 トップバッターはスカート。行儀が悪いとは思いつつも、靴を脱いでソファに立って観る。ライブで観るのは初めてだが、とても良い。そしてMCがとても丁寧だ。たぶん僕のことを知っている人は少ないと思うので……と謙虚に話し、お客さんを自分の世界に招き入れてゆく。3組いる出演者のうち、アイドルユニットのファンが多いのか、ケータイを眺めて過ごしている人が目立ったのが残念だが、とにかく良い演奏だった。途中、ナンバーガールの思い出を語る場面もあった。まだ小学生の頃にMTVで「透明少女」のPVを観て衝撃を受け、中学生の頃に『NUM-HEAVYMETALLIC』を部屋で聴いていると、母親が入ってきて「そういう音楽が好きなんだったら、これも聴きなさい!」とXTCのアルバムを渡された――そんなエピソードが印象深い。

 2組目がアイドルユニットだろうと思っていたのだが、セットチェンジの様子を眺めていると、マイクスタンドが1つだけ置かれている。まさかと思っていると、向井秀徳が客席をかき分けてステージに登場する(そういう演出ではなく、狭い会場なので舞台袖などはなく、そうやって出入りするしかないのだ)。この日はのっけからテンションの高い演奏で驚く。そして、スカートのMCの影響なのかどうか、ナンバーガール時代の曲がいつもより多めに演奏される。それを弾き語りで演奏することはさほど珍しいことではないけれど、それはしっぽりと演奏されることが多かったのだが、先日の渋谷WWW同様、とても筆圧が強くなっている。久しぶりに演奏された「IGGY POP FANCLUB」はとてもエモーショナルだ。向井さんのライブは基本的に反復であり、こうしたことはとても珍しいことだ。

 向井さんの演奏が終わったところで1階のバーカウンターに降りる。会場の気温があまりに高く、過ごしていると汗だくになりそうだったのもある。2ドリンク制で、ドリンクチケットがもう1枚余っていたので、それをハイボールに交換して飲んだ。モニターにはアイドルユニットが映し出されており、観客がペンライトを振っているのが見えた。あのお客さんたちは、最初の二組をどんな気持ちで観ていたのだろう。どうしてこうしたブッキングがなされたのだろう。ハイボールを飲み干したところで会場をあとにして、駅前にある「たつや」に入店。ホッピーと白ワインで乾杯し、ひとしきりライブの感想を語り合って別れる。ここからアパートに帰るには、日比谷線霞ヶ関で乗り換えればよいのだが、気づけば中目黒駅にいる。どうして最初に乗った駅より一歩後退してしまっているのだろう?