朝7時に起きて、ジョギングに出る。不忍池をぐるり。ジョギングを始めてから、この界隈の店を取材して記録できないかという思いが強くなった。路地にはいくつもお店がある。そうしたお店に流れてきた時間を、そのお店を営んできた方たちの生活を描けないか。その原稿を読んで「この街に行ってみたい」と思ってもらうのではなく、読んだ人自身の生活の身のまわりにあるお店に違った視線を持てるような原稿を書けないか。そんな記事を書くために自分でミニコミを始めるとすればどんなタイトルがいいだろう。ここ最近はずっとそんなことを考えていたのだが、ここ数日で『不忍界隈』という案が思い浮かぶと、いよいよ「どのお店に話を聞こう?」と考えるようになった。ジョギングしながら、気になるお店をメモしてゆく。

 「ベーカリーミウラ」でレーズン食パンを買って帰り、コーヒーを淹れて朝食。散髪に出かける知人を見送り、展示に向けたテキストを考える。昼、キャベツと酒盗のパスタを少なめに作って食す。13時半、帰ってきた知人と一緒にアパートを出て、隣の酒屋で缶発泡酒を購入し、飲みながら歩く。今朝ジョギングした路地を通る。8時頃の風景しか知らないので、営業しているお店が多く、印象が違う。

 上野動物園池之端門の前を通ると、「本日無料開放」とあり、ものすごい人出だ。せっかくだから池之端門そばにいるハシビロ先輩とミンゴだけ観ていこうかという話になり、入園。入り口では「迷子札」というテントが出ていて、何人もスタッフが待機している。これだけ混雑していれば迷子も相当な数にのぼるだろう。オカピの檻にあんなに人だかりができているのを初めて観た。ハシビロコウの檻にも何重も人だかりができていて、人が多いせいか、今日はよく動いていた。フラミンゴはいつもより赤く見えた。夏毛だろうか。その二つを観るとすっかり満足したので、出口に向かう。迷子札のテントを見ると、ベビーカーを押す父親がシールに名前を書き、子供に貼っている。「ああ、迷子札ってそういうことか! 『うちの子が迷子になったんです!』と捜索願を出すわけじゃなくて、迷子になってもすぐにわかるように札を貼っておくのか! なるほど! それは賢いね!」と興奮していると、どうしてすぐに気づかなかったのかという顔で知人に眺められる。

 上野動物園を出て、不忍池へ。弁天堂前に出ている屋台は大賑わいだ。この人出だと座れないかと思ったが、焼き鳥屋の屋台に空席があり、池のほとりに陣取って生ビールで乾杯。隣には串刺しのポテトチップスの屋台が出ているのだが、その裏側で、二十歳そこそこに見える金髪の男の子がひたすら芋をスライスしている。こういう屋台は家族でやっているのだろうか。そこに小さな女の子がやってきて、「遊んでよー!」とねだっている。くわえタバコで仕事をしながら、「怒んないでよ、悲しくなっちゃうよ」と男の子は仕事を続ける。焼き鳥を食べ終えたところで屋台を出て、近くの骨董市をひやかす。

 アメ横を越えてガードをくぐり、気になっていた居酒屋「えんぱち」。入り口に店員が立っており、「すいません、2名入れますか?」と尋ねると、4時からは2時間制ですとぼそぼそと言い、カウンターを指差し、奥に消えてゆく。今はまだ15時半で、一体どういうつもりで言われたのかまったくわからず、ムッとした気持ちになる。知人に「1杯ずつ飲んで、1品ずつ食べたら出よう」と言って、チューハイで乾杯。牛タンの塩蒸しとタコ酢を注文したのだが、これが大変うまかった。塩蒸し、さまざまなスパイスに漬け込んだ味がする。先ほどの店員とは別の店員にホッピーセットを注文し、しばらく飲んでいくことにする。「タコ酢が好きなところはねえ、歯ごたえがあって、しょっぱいところ!」と知人が言っている。追加で串焼きの盛り合わせと春キャベツのおひたしを食べて、最後に豚肉キムチ炒めを注文。これも絶品だ。しっかり飲み食いしたのに、会計は5000円程度で嬉しくなる。

 喫茶店「ギャラン」に流れる。今後は打ち合わせをする場所はここにしようと思うというと、「あんまり向いてないんじゃないの」と言われる。そう言われると自信がなくなってくる。根津まで歩き、最後にハイボールを飲んで帰ろうと「H」を覗くと、新宿5丁目「N」のKさんがいた。偶然会えて嬉しくなる。「ちょうど今、はっちゃんの話をしてたところ」と、隣にいた方を紹介してくださる。僕がこの界隈に住んでいることを告げると、「このあたりで好きな店を3つ挙げてみて」と言われて、答えに窮する。そんなことを言っていてライターを名乗っていられるのかはわからないけれど、そういうところからは自分はもう降りているのだということを、改めて感じる。