外が暗いせいか、9時過ぎまで起きれず。知人も同じように起きれなかった。今日のジョギングは休みにして、春雨スープで朝食。新聞に目を通したのち、国会図書館で複写してきた資料を読み込んだ。酒盗がなくなっていたので、すぐ近くのスーパーに買いに出てみるも在庫切れ。代わりにアンチョビを買ってきて、キャベツとアンチョビのパスタを作ってお昼ごはんにする。酒盗のほうが具材に混ざりやすいので、今日のパスタはムラのある仕上がりになってしまった。

 午後は引き続き資料を読んだ。道路の変遷や町の変遷はメモに書き出して、そこから原稿の設計図を「たんけんぼくのまち」よろしく作ってゆく。18時にアパートを出て、谷中ぎんざ。先日研いでもらった包丁、びっくりするほど切れ味が良くなっていて感動したので、途中で研ぎ屋さんに立ち寄って「素晴らしかったです」と伝えたのち、「古書信天翁」。『不忍界隈』の話を伝えてみる。自分の中では紛れもなく面白い企画だと思っているけれど、誰かに伝えたときにどういう反応になるかと不安になっていたけれど、面白がってくださってホッとする。

 向かいにある大島酒店で缶発泡酒を買って飲み干して、すずらん通りにあるカラオケ酒場へ。まだ早い時間だが、小上がりに先客がいた。今日はここの常連だった方の3度目の月命日らしかった。かつて常連さんたちで慰安旅行に出かけたときのビデオも見せていただく。画面の端っこには「1991年」という文字が見える。今日この場で取材を相談をするのもはしたないので、1時間ほど飲んで店を出る。ちょうど知人が千駄木駅についたところだったので、スーパーで買い物をしてアパートに帰る。

 玉子とトマトの炒め物をツマミに乾杯し、録画しておいたBS1スペシャル『離郷、そして…〜中国 史上最大の移住政策〜』観る。中国政府は今、「脱貧困」を掲げた移民政策を行なっている。水道も通っていない辺鄙な村に暮らす人たちを集落ごと都市に移民させるのだ。村人たちは「都市に行けば生活が楽になるはずだ」と飛びつくが、移民にはひとり(ひと世帯ではなく、ひとり)5万元が必要だ。ここでみそなのは、「希望する者は5万元払って移住」ではなく、「全員が5万元払って移住」という点だ。ある家族は親戚に借金をしてまで移住を望む。それもそのはず、ほとんどの世帯を移住させると、そこにあった家屋や施設はすべて中国政府によってなぎ倒され、そこに取り残されることになるのだ。

 ただ、「全員を移住させる」といっても、そこから漏れる人もいる。中国では農村戸籍都市戸籍は別らしく、その戸籍次第では「単身者の移住は認めない」として、取り残される。ぽつんとした廃墟に取り残されるのだ。移住を前に胸を膨らませる村びとたちを眺めていると、その結果を知っている私たち、つまり知人と僕は「やめといたほうがいいのに」と何度も言いながら画面を見つめた。日本の場合、交通手段が発達して移動が楽になり、ある意味では日本が小さくなったことにより、田舎から都会に若者たちは出て行った。僕も、知人もそのひとりだ。日本ではそうした問題はじわじわと進み、ここ数年で限界集落という問題が語られるようになっている。でも、中国ではそれが一気に、それも政府主導で進められている。親戚に借金までして移住した男が、日雇い労働で働いたものの、賃金を支払ってもらえずに呆然とする顔が忘れられない。