6時に目が覚める。昨晩は結構お酒を飲んだこともあり、汁物を欲している。知人も汁気を欲しているようだったので、コンソメスープを作る。8時半に完成して、トーストを焼いて朝食をとる。午前中は来月創刊するつもりの――と書いてみて、入稿まで1ヶ月を切っていることに気づいて焦っている――『不忍界隈』の見積もりをレトロ印刷で申し込んだのち、チラシのレイアウトを考える。それを出力した紙をテーブルに置いていると、それを見た知人が「すぐ創刊する」と眉間にしわを寄せる。「たぶん皆思いよるで。『橋本さん、また創刊するんだ』って。橋本さんあるある、『創刊しがち』やなって」とぼやく。

 取り扱ってもらっているお店と、これまで通販で購入してくださった方に『月刊ドライブイン』(11)の案内を送り、ツイッターに情報を放流したのち、知人と一緒に出かける。刀削麺の店に行ってみたいという知人に連れられて、日暮里駅の東口に出る。昨年の秋に千駄木に引っ越してきて半年以上経つけれど、駅のこちら側に足を踏み入れたのは初めてだが、風景が全然違っていてギョッとする。刀削麺の店は大行列だったこともあり、すぐに駅の反対側に引き返した。

 「古書信天翁」でサキ先輩に『不忍界隈』の仮チラシを渡し、大賑わいの谷中ぎんざを歩く。途中にある酒屋に今日も立ち寄り、生ビール。前々からわかっていたことだが、こういう場所で飲んでいると、まわりのお客さんがとてもスロウに飲んでいることに気づかされる。僕も知人もあっという間に飲んでしまう。だから酔っ払うのも早いのだろう。しかし、席も限られた場所で飲んでいるのだから、どうしても長居することができないでいる。14時に中華料理店「砺波」に入り、今日はシンプルに、ラーメンと餃子、それにチャーハン。他にお客さんがいなかったこともあり、帰り際に「砺波ってことは、やっぱり富山のご出身なんですか?」と訊ねてしばし会話。店を出たところで、「もふって本当に、ああやって食い込んでいくよね」と知人に言われる。「どの口が人見知りとか言いよんじゃあ」とも。

 16時半になって再びアパートを出る。今日は渋谷で前野健太のコンサートだ。チケットを2枚取ってしまっていたことを最近になって思い出し、音楽が好きな誰かと言えばと考えて、俳優のH・Sさんを誘った。18時過ぎ、ライブが始まる。これまで何度となく前野健太のライブを観てきたけれど、これまでになく自由な感じがする。立体裁断というのか、これまでになかった奥行きを感じるのはなぜだろう。バンドの演奏も素晴らしく、ただただ堪能する。特に素晴らしかったのが「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」で、終演後はこの曲を思い返しながら飲むことになるかと思っていたが、この日のライブで何より素晴らしかったのは「マシッソヨ、サムゲタン」だ。曲のサビに繰り返される「マシッソヨ、Oh サムゲタン」のフレーズを客にも歌うように振ると、客席からかなりのボリュームで歌声が返った。それに触発されるかのように前野さんのボルテージも上がってゆく。曲が終盤を迎えても客のコールは止まず、前野さんは「そのまま帰ってください!」と口にした。「これは最高のデモだよ。そのまま歩いて行けば何かが伝わるよ!」と言う言葉に、この数百人が歌いながら道玄坂を練り歩く姿を想像する。

 終演後はHさんと一緒に「山家」で飲んだ。ちょうど深夜料金に切り替わる直前だったのだが、ホッピーを注文すると、店員さんが「(深夜料金で値上がりする前に)中も一緒に注文しておきますか」と言ってくれる。親切な店員さんだ。焼き鳥の盛り合わせとレバニラ炒めをツマミに1時間ほど話し、千代田線に乗り込んだ。ライブ中にたくさん飲んだせいもあり、気づくと亀有にいる。だが、今日は解散したのが早かったので、まだ引き返すことができそうだ。千駄木に戻ってきたところで電話がかかってくる。相手の声が震えているが、特に気の利いた言葉も出ず、無力だ。