6時過ぎに目がさめる。一昨日あたりからうっすら感じていたことではあるが、どうも風邪気味だ。8時きっかりにアパートを出て、自転車を漕いでパン屋さんへ。外はすっかり晴れている。パン屋さんに到着した瞬間に、今日は水曜日であることに気づく。水曜日はパン屋さんは休みなのだ――どうしようかと立ち尽くしていると、同じスペースで花屋さんを開いている方がやってくる。今度『不忍界隈』で話を聞かせてもらう約束をしていたので、その具体的な日程を相談。帰りに「太平製パン」でたまごサンドを買って帰り、コーヒーを淹れて知人を起こし、朝食をとる。

 テレビでは昨日の台風の被害が映し出されている。小学生の頃に経験した大きな台風のことを思い出す。あの頃住んでいた家は瓦屋根だったので、少し大きな台風が通過すると瓦が飛ぶことはよくあったが、あのときは電柱がなぎ倒され、しばらく停電になった。冷蔵庫は使えなくなり、夜はろうそくと懐中電灯で過ごした。そのことを思い返すと、当時の自分が非日常の体験にどこかわくわくしていたことも思い出される。あれは自分で何も用意する必要がなく、子供だったからそんなふうに呑気に思えていたのだろうなと思う。だが、本当にそうだろうか。今の自分がそういう状態に巻き込まれたとして、今はその呑気さと無縁でいられるだろうか?

 午前中は上野昂志『肉体の時代 体験的'60年代文化論』を読み進める。11時、整骨院。知人は美容院に出かけて不在なので、お昼はひとりでソース焼きそばを作って食す。焼きそばに肉なんて入れられるほど裕福だろうかと思い直し、今日の具材はキャベツともやしだけ。食後、自転車に乗って蔵前に出て、筑摩書房で打ち合わせ。『月刊ドライブイン』、1冊の本にまとまることがようやく決まる。思いのほか打ち合わせが早く終わったので、「近いうちに打ち合わせを」とメールをもらっていたHのZ社のTさんに電話し、急で申し訳ないんですけど、今からはいかがですかと相談し、神保町へ。1時間ほど打ち合わせをしたのち、17時、千駄木まで帰ってくる。

 知人と「越後屋本店」で待ち合わせ、生ビールで乾杯。飲んでいると、お店のお母さんがどこかへ歩いていく。しばらくすると帰ってきて、「今、そこで焼き鳥作ってもらうように頼んできたから、ゆっくり飲んでて」と笑顔で言う。『不忍界隈』のお礼ということなのだろうけれど、気を遣わせてしまって申し訳なくなる。沖縄に出かけたときにお土産を買ってプレゼントしたことも影響しているのだろう。「次にどこか遠出したときはまたお土産を買ってこなければ」と思うが、そうするとさらに気を遣わせることになってしまう。僕にできることはここで生ビールを飲むくらいだと思い直し、ビールを4杯飲んで帰途につく。

 夜、友人のA・Iさんとメールで何度かやりとり。これまで「自分が書いておくべきことがある」と意気込んであれこれ書いてきたけれど、自分に出来ることなど何一つないのではないかという気持ちに陥ってしまう。そもそも何も依頼されていない僕に何が出来るというのだろう?