7時半に起きて、ジョギングに出る。まだ松飾りは残っているけれど、登校する学生や通勤客が大勢いる。帰り際にセブンイレブンに寄り、たっぷりハムとたまごサンドを買って帰る。コーヒーを淹れて朝ごはん。昼、マルちゃん正麺(醤油)。具材はニラ――のつもりで間違えて買ってきた小葱――とモヤシ、それに挽き肉だ。こないだの『サタデープラス』でどこかの料理人が「弱火で調理すればうまくいく」と説明していて、その一つが「挽き肉の調理は弱火がよい」と語っていた。油は食材の香りが移りやすいので、じっくり弱火で加熱すれば臭みを油に移すことができ、過熱した挽き肉をざるで越せばアクが取れる、と。それで作ってみたけれど、そんな匂いを嗅ぎ分ける鼻持ち合わせていないのだった。

 

 午後、テープ起こしを進める。15時50分、ようやく帰京した知人が、ひょっこりはんのように扉を開く。録画した『ファミリーヒストリー』の宮藤官九郎の回を眺めていると、僕にとっては兄貴分とも呼ぶべきMさんから電話がかかってくる。つい最近、刊行記念トークイベントに出演を依頼し、ご快諾いただいたばかりだ。何か問題でもあっただろうかと心配しつつ、おそるおそる電話に出る。「トークイベントなんだけど、橋本くんが考えてくれたタイトルでもいいんだけど、橋本君の初の著書の刊行記念がそれでいいのかなって思っちゃって。もっと橋本君からドライブインの話を聞きたい人もいるんじゃないかと、はたと心配になって」と言ってくださる。他にもいくつかトークイベントが決まっていて、Mさんとは雑誌を作ることについて話ができたらと思っています、と伝える。

 

 知人はほどなくして出かけてゆく。18時、かまたまうどんを作って腹を持たしたのち、テープ起こしを続ける。21時半にようやく終える。今日は飲まないつもりでいたけれど、気分転換にアサヒスーパードライを飲み始める。冷蔵庫にこんにゃくがあったので、醤油とあえて炒める。それをツマミに、昨年末に放送されたBS1スペシャル『中国の小学校で今何が?』を観る。オープニングで映し出されるのは就職説明会で、そこには腕を組む母子の姿がある。最近はこうした母子をよく見かけると人事担当者は語る。自立できない若者が増えている原因の一つは、「応試教育」。一流企業に就職しなければ負け組だとされる中国では、受験戦争が過熱し、「応試教育」と呼ばれる詰め込み教育がなされてきた。寝るとき以外は勉強の日々で、情操教育を行うことはできず、いじめや自殺が社会問題になっている。

 

 これを改善するべく、新たな潮流が生まれている。3年前に創設された文礼国際学院は、古典至上主義を掲げる全寮制の学校だ。四書五経をすべて暗記させ、ヨーロッパの古典を読ませ、ラテン語まで教えている。王財貴校長によれば、小学校教育を歪めたのは、誤った二つの政策にある。一つは毛沢東による文化大革命で、古い中国は迫害され、孔子はその象徴として徹底的に否定された。もう一つ、1979年に始まった一人っ子政策で過保護に育てられた子供は「小皇帝」と呼ばれ、現在はその世代が親となり、さらに子供が甘やかされて「暴れる子熊」として新たな社会問題となっている。そこで文礼国際学院は過剰なまでの伝統回帰を打ち出し、富裕層を親に持つ子供達が通っている(ただし学費が高く拝金主義との批判もあり、算数や理科や社会を教えないため、卒業生が社会で使い物にならないとの批判もある)。

 

 近年では国も対策に乗り出しつつある。中国教育学会顧問・朱永新は「新教育」という改革運動を進めており、画一的な教育を脱し、豊かな人間性を育てようとしている。モデル都市の海門市では、70の小学校すべてで「新教育」に取り組んでいる。選択授業が目玉で、応試教育では役に立たないものとされてきた読書が柱となり、「呼吸するように読書をしよう」がスローガンだ(ただし選択授業もすべて細かくプログラムが決められており、推薦図書も細かく指定されている)。ただ、現場では混乱も生じている。若い教師たちは、まさに応試教育を勝ち抜いた人たちであり、教養や想像力をどう教えればいいのかと戸惑う様子が映し出される。子供が教育を受けるだけでなく、その親世代もまた、新鮮な様子で芸術や書物に触れる様子が印象的だった。