2月2日

 7時半に目を覚ます。録画が溜まっていた『まんぷく』、まとめて観てゆく。ようやくラーメン作りを目指し始めている。「そうだ、ラーメンだ!」と言い始めた萬平さんがツボだったらしく、知人は何度もその真似をしている。11時、マルちゃん正麺(味噌)を作って食す。『まんぷく』を観ているうちに知人もラーメンが食べたくなったらしく、麺を二人分茹でて、具も少し分ける。12時過ぎ、ひとりでアパートを出る。12時50分に三軒茶屋にたどり着く。歩きスマホをしながらベビーカーを押している人をちらほら見かけ、びっくりする。シアタートラムに向かい、13時、チェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド』観る。ただただ素晴らしかった。

 僕はコンビニが好きだ。小学生の頃に、実家のある小さな町にセブンが出来たときは嬉しかったし、両親が共働きで、弁当が必要な日にコンビニの弁当を持たされたこともあるし(これは苦い思い出だけど)、中学生の頃に熱中したゲームは『ザ・コンビニ』だし、大学受験で上京したときに泊まったホテルは渋谷にあり、そこで初めてam/pmを利用し、東京のコンビニ弁当は温めにこんなに時間がかかるのかと驚いた記憶も今では懐かしく思い出される。前に住んでいたアパートの近くにam/pmがあり、チキンの香草焼きのやつを何度食べただろうと、観劇しながら思い返していた。その弁当どころか、その店は今ファミリーマートだが、そこがかつてam/pmだったことも忘れて過ごしている。

 序盤にある、コンビニ店内の配置を説明するシーンを眺めていると、その姿はほとんどの日本人が「これぞコンビニの配置」として認識するものだろうなと思って、しみじみした気持ちになる。しみじみするというのは、それがせいぜい僕が生まれたあとに形成された風景であり、僕が死ぬまでのあいだに確実に変形してゆくことを想像してしまうからだ(エロ本コーナーの説明のところで置かれた数秒の間に、それを強く感じる)。コンビニなんてただのチェーンでしかないけれど、そこに愛着を感じてしまうところもある。だから初演されたときから大好きだったのだけれども、タイトルに「ソリッド」と付け加えられたことに強い違和感を抱いたまま観劇した。が、ソリッドという言葉の意味を観客である僕は勝手に受け取ったような気がした。それは、終盤の店長のシーンで強く感じたものだ。大きなシステムの中に包まれてしまっている私たちは、そこに愛着を持ったとしても商品は「新陳代謝」し、そのシステムにバグを起こそうとしても覆すことはできず、すべては徒労である。ただ、それが徒労であるとわかっていても、日々過ごしているとソリッドな気持ちが増してくるし、たとえ徒労であろうとも「なんなんだよ」と強く叫ばなければという気持ちが湧き上がってくる。

 観劇後はキャロットタワーに足を運び、ツタヤに『ドライブイン探訪』が並んでいるかどうかチェックする。並んでませんねこれはと落ち込みつつ店を出て、田園都市線で渋谷に出る。「大盛堂書店」の2階に上がり、探すも、ここでも見当たらず。ただ、このお店は新刊情報をつぶやいてくださっていたこともあり、お店の方に尋ねると、「売り切れてしまって、今追加で発注しているところ」と教えてくださる。そのまま少しご挨拶。副都心線雑司が谷に出て、「古書往来座」へ。識語を入れて欲しいとセトさんに頼まれる。識語って何ですかと尋ねると、あれ、はっち、3日前に飲んだときにもその話をして、しばらく考えて「放蕩」って言ってたけど、おぼえてない?とセトさんが言う。飲んでるときのことはほぼおぼえてませんと伝えて、もう一度「識語」のことを教えてもらう。しばらく考えたのち、「再訪を重ねた記録たちです」と書き添える。のむみちさんにもサインを求められ、長めの言葉を添える。あとがきにも書いた通り、編集者の方に繋いでくれたのはのむみちさんで、彼女がいなければこうして一冊にまとまることはなかっただろう。

 缶ビールを買って、東京芸術劇場へ。劇場前で待っていると、17時半、大道芸が始まる。高校生が道ゆく人たちに呼びかけているが、この日は人通りが少なく、やるせない気持ちになってくる。ほどなくして友人のA.Iさんがやってくる。さっき焼き肉屋さんを通りかかったから、焼き肉が食べたいかもとAさんは言うが、焼き肉屋はどこも思い浮かばなかった。ぶらりと歩いていると「ふくろ」の前を通りかかり、「ふくろ」でもいいかもとAさんが言うので、入店。2階のはじっこの席に陣取り、僕はホッピーセットを、Aさんはハイボールセットを注文して乾杯。ツマミにタン焼きがあるのを見つけ、「焼き肉屋に行きたいっていうか、タン塩が食べたいだけだったから、これで満足」とAさんが言う。お昼に観てきたばかりの『スーパープレミアムソフトWバニラリッチソリッド』の感想を伝えると、Aさんは自分が出演しているかのように喜んでいる(なぜタイトルに「ソリッド」なんて言葉を加えてしまうのかと憤っていたのを知っているからというのもあるのだろう)。

 続けて、昨晩のライブの感想も話す。デザイナーのYさんと一緒に、「ホッピー通りに行けば、きっと橋本さんがひとりで飲んでいるはず」と会場を出て歩いているうちに、打ち上げ待ちの人たちと合流して、そちらに飲みに行く流れになったのだとAさんは言う。ひとしきり今日と昨日の感想を話したあとで、沖縄でのことを振り返って話す。お酒が進むが、このペースで飲んでいるとへろへろになってしまう。いつもはホッピー1本で中3杯のペースで飲むが、今日は話したいことが山のようにあるので、ホッピー1本で中2杯と薄めで飲んだ。22時頃に河岸をかえて、「ひもの屋」へ。Aさんが今どんなことを感じているのか話を聴きながら、メモを書き記す。やはりAさんとトークイベントがしたいということも伝えて、開催するとすればいつ頃にするか、場所はどこがいいのか話す。僕としては、東京の観客を前に話すというイメージが湧かなかった。Aさんは東京の観客の前では口数が少なくなってしまうだろう。やはり沖縄がいいのではないかと伝えると、Aさんが「この場所がいい気がする」と提案してくれた。0時過ぎに店を出て、改札で別れて帰途につく。