2月11日

 8時過ぎに起きる。外から軍歌が響いてくる。アイフォーンを手に取り、昨晩届いていたメールを読み返す。『ドライブイン探訪』を献本していた脚本家のO.Yさんから、お礼のメールが届いていたのだ。嬉しいことに、「すでに書店で購入し、読み終えたところでした」とある。『S!』誌の対談取材でお会いした際に、Tさんが「はっちゃんはね、『月刊ドライブイン』ってのを作ってるんですよ」と紹介してくれたのを覚えてくださっていたらしく、書店で見かけたときに「あ、あのときのライターさんだ」と思ってくださったという。ドライブインの取材で各地を転々としているときも、テレビドラマを観て過ごしてきた。最終回が放送される日は、テレビの観れる酒場を探し、リアルタイムで視聴してきた。そのドラマには、Oさんが書いたドラマもあるので、嬉しくなる。いつかドライブインをテーマにしたドラマが作られないかと妄想を膨らませる。それは、自分が原作者になりたいなんてことではなく、そんなドラマがあれば観てみたいということ。

 12時、知人と一緒にアパートを出る。上野を目指して歩いていると、「海上海」が目に留まる。知人は中華の気分であるらしかったので、ここで食べていくことにする。牡蠣とナスとキノコの炒め物と酸辣湯麺、それにビールを注文。ほどなくして運ばれてきた炒め物を一口食べて、あまりにウマくて驚く。酸辣湯麺も美味しく、途中でビールを追加する。何より店員さんの接客が心地よい。人気店なのだろう、テイクアウトのお客さんが次々来店する。このあと上野で少し飲むつもりだからと2品しか注文しなかったけれど、ほとんど満腹になる。「とろみがあるからだと思う」と知人がやたらと話す。

 上野に到着して、「LOFT」でペンを物色する。今月17日からイタリアに同行取材し、昨年の春に書いた『手紙』の続きのようなものを執筆する予定がある。それは手書きで書くつもりなので、ひたすらペンを試し書きしてゆく。がりっとした感触が残るペンだと書きづらく、線が刺々しく感じられる。あまり太字だと、字が大きくなってしまって、書ける文字数が少なくなってしまう。色味や質感を確かめて、ユニボールシグノスタンダード0.5mm(ブルーブラック)を4本購入する。それとは別に、封筒に宛名を書くためのサインペンとして、パイロットスーパプチ(中字)耐水性のものを赤と黒一本ずつ、それに修正ペンも一緒に購入した。 

 あとは便箋だ。ただ、「LOFT」には在庫が少なく、銀座線で銀座に出る。今日は歩行者天国だ。大通りを歩いてみても、ほとんど心が高揚することはなかった。「伊東屋」に入り、便箋を探す。素敵な便箋はあるけれど、店名が刻印されているものは、今回の企画には適さない気がする。書いた便箋を、図録のようにして書籍化する可能性もあるけれど、それを考えるとサイズも問題だ。やはりあらかじめ準備したものではなく、旅先で買い求めた便箋やポストカードのほうがふさわしい気がして、何も買わずに店を出た。「三省堂書店」(有楽町店)を覗き、どこに配架されているのか探す。ノンフィクションの棚を探すも見当たらず、検索機で調べてみると、「男性ファッション」の棚に並んでいるようだ。一体どういうことかと思ってみると、やはり車関係の棚に置かれている。面陳してくれているけれど、隣は『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』だ。せっかく新聞に著者インタビューが掲載されても、この位置では気づく人も少ないだろう。

 山手線で日暮里駅まで引き返す。「古書信天翁」を見上げて、夕やけだんだんを降り、谷中ぎんざを歩く。昨日に比べて人出が少ない。「越後屋本店」で生ビールを注文し、軒先で飲む。土曜日の新聞を買いそびれたとお母さんが言うので、プリントアウトしておいたものを手渡す。これ、貼っておかなきゃと言ってくれる。三連休の初日は雪だったけれど、「そんな日でも意外とお客さんが多かったんですよ」とお母さんが言う。せっかくだから雪見酒といって、却ってお客さんが多かったくらいだ、と。ビールを2杯飲んだところでおいとまして、移転が発表された「古書ほうろう」まで足を伸ばし、本を3冊購入する。スーパーマーケットで晩御飯を購入し、図書館で日本経済新聞(2月7日付夕刊)をチェックする。「目利きが選ぶ3冊」という欄で、速水健朗さんが『ドライブイン探訪』を少し紹介してくれている。

 夜は鳥野菜みそ鍋を知人に作ってもらって、晩酌。先日、「山添ドライブイン」を再訪したときに「荷物になって申し訳ないけど」と手土産を渡されていたのだが、その中身は日本酒だった。地元の伊賀や名張で作られた日本酒、それも大吟醸が3本も入っていた。そのうちの一本、「瀧自慢」を飲みながら、録画しておいたドラマを観続ける。