7月21日

 6時前、豪快に口をゆすぐ音で目が覚める。しばらくケータイを見ては二度寝、三度寝する時間を繰り返していると、「あの、洗濯機の中に洗濯物が残ったままになってるんですけど、どうしたらいいですかね」と相談する声がして目を覚ます。ああ、誰かがほったらかしてるんだ、じゃあ、そうだな、これ、この籠に入れておけばいいよ、と大きな声が聞こえる。受け答えしているのは宿のスタッフではなく、よく宿泊している老年の男性だ。格安で宿泊できて、あまりコミュニケーションを交わさずに過ごせるところが取材に気持ちを集中できて心地よかったのだけれども、どうなるだろう。

 今日はよく晴れていて、まだエアコンがついている時間でも暑くなる。蝉の鳴き声が聴こえている。そうだ、『ワイドナショー』を観なければと思って、番組が始まる前にと、セブンイレブンに出かけてジューシーハムサンドを買い求める。放送開始まであと1分で、宿まで小走りで走っていると、ふいに小学生時代の夏休みに戻ったような気持ちになる。急いでテレビをつけると、フジテレビ系列のOTVだけうまく写らず、映像はモザイク状に固まり、音声はまったく聴こえない。一体どうしたことだろうと思っているうちに、「このチャンネルは現在休止しています」と表示されてしまう。いっそのこと「足立屋」にでも出かけて、めずらしく午前中から酒を飲みながら過ごせばよかったかなと思っても遅い。

 今日は投開票日だ。この近くの投票所はどこにあるのだろう。調べてみると、この界隈だと壺屋小学校が投票所のようだ。ゆいレール安里駅から校舎をよく目にしているけれど、そういえばどこからたどり着けるのだろう。せっかくだから眺めに行ってみる。安里駅の近くから側道が延びており、それが校門へと続いている。ちょうど一番暑い時間帯だから投票に訪れる人はほとんど見かけなかったけれど、広々としたグラウンドでこどもがふたり、駆け回っている。これまで気にしたことがなかったけれど、この界隈に暮らす子供達は、たとえば学校帰りにどこで遊んでいるのだろう。

 13時半、仮設市場を覗きに行く。今日は日曜日だというのにどこか閑散としている。今日は二階の「道頓堀」でと思ったけれど、話を聞かせてもらった佐和美さんの姿が見えず、また別の機会に立ち寄ることにする。迷いに迷った挙句、今日も「大衆食堂ミルク」へ。選挙の日は外食という習慣のある家に育ったわけでもないけれど、なにかに流されるように、いつもより豪華なものをと思い、すき焼きを注文した。いつも食べるちゃんぽんは500円なので、50円の贅沢だ。テレビでは高校野球を中継している。カップルで食事をしていた外国人の男性が、「これ、奥武山公園でやってるんですか?」と店員さんに尋ねている。そうね、セルラーかね、と店員さん。その男性はネパールから出稼ぎにきているそうで、「ネパールでも野球はやる?」と店員さんが尋ねると、「いや、野球はやらない、そのかわりにクリケットが人気ですね」と答えている。一緒にいる女性のほうはまだ来日して日が浅いらしく、日本語は勉強中だという。その彼女が「英語は話せますか?」と質問すると、店員さんはバタバタと手を振り、いやいや、英語はちんぷんかんぷん、と笑う。その言葉に男性が食いつき、「ちんぷんかんぷん? それは何? 韓国語ですか、中国語ですか」と尋ねている。困った店員さんは「え、ちんぷんかんぷんって日本語よね?」と僕に助けを求める。日本語ですと断言しながらも、たしかに、言われてみれば日本語としては不思議な音だ(そして、そのときに検索して教えてあげればよかったのだけれど、この日記を書いている今になってようやく由来を調べた)。

 ビールも注文してしまって、お腹がすっかり満腹になったので、宿に戻るとうたた寝してしまう。15時、暑さで目を覚ます。パソコンを広げて少し仕事をして、16時半に仮設市場へ。刺身スペース、以前は市場の隅っこにあったおかげでいつでも座れたけれど、今は市場の真ん中にあるので、いつ通りかかっても埋まっていた。今日は珍しく空きがあるので、「長嶺鮮魚」で刺身の盛り合わせと缶ビールを購入する。テレビのある店はどこも野球中継をつけていて、市場界隈を歩いたときもワンセグなどで中継に見入っている人がたくさんいた。まだ試合が続いているのかと驚く。そろそろ刺身を食べ終えようかというところで「おお!」と歓声があがり、試合が終わったらしかった。すぐにLINEニュースの琉球新報の記事がぽこんと届き、「沖尚が甲子園へ/興南に8−7」と表示される。

 食べ終えた器を戻しにいきがてら、そういえばそこの駐車場がなくなるんですね、と切り出してみる。市場のすぐ近くにある「なは市場前駐車場」が、いよいよ7月30日で営業を終えるのだ。その噂は前々から聞いていたけれど、いよいよその日が迫っている。ときどきトラックが停まっていることもあり、営業に影響はないのかと尋ねてみると、いやいや、うちには影響はないよとのことでとりあえずは安心する。ただ、公設市場から地元客の足が遠のいた原因の一つとして語られるのは、駐車場完備のスーパーが増えたことで、車の入れない路地があることはこのエリアの魅力ではあるけれど、地元客も観光客も、車がなければアクセスしづらいのは確かだ。この駐車場は市場のすぐ近くにあって、それなりの台数を収容できる唯一の駐車場だった。ここがなくなると、国際通りか浮島通りに駐車するほかなく、少し遠くなってしまう。

 宿に戻ってテープ起こしを進める。シャワーを浴びて外に出ると、20時になろうかというのに平和通りが賑わっている。ぐるりと歩いているところに琉球新報からLINEニュースがぽこんと届き、オール沖縄の候補が当選したのだと知る。「足立屋」の外カウンターでビールを飲みながら、身を屈ませて店内のテレビを眺める。そんなふうに選挙特番を眺めている人は他に見当たらなかった。 

沖縄放送局に切り替わり、出口調査の結果が出た。10代、20代は自民候補支持がやや多く、30代はわりと自民候補支持が多めだった。同じ主張が繰り返されながらも何も変わらないことに倦んでいる空気はきっとあるはずで、昨日18時前後に開催された両陣営の街頭演説でも、聴衆の数はオール沖縄側が圧倒的に多かったけれど、比率としては自民候補のほうが若者が多かった。演説で自民候補が訴えていたことも、「沖縄の選挙で、イデオロギーをもう終わらせたいと思っているんです。もう右だ、左だ、この対立を、いまだに続けて選挙をしているのは沖縄だけなんですよ皆さん」ということで、それはもう一方の陣営で語られた言葉の多くがこれまで繰り返し訴えられてきたことであるのと対照的に感じられた。もちろん大切なことというのはいつの時代も変わることではないけれど、それでは現実が動かないと感じてしまっている層が出てきてしまっていることは事実で、それに比べると、(まだ今のところこなれてないけれど)とにかくフレッシュさを感じさせるイメージ戦略を取り、那覇の町を散策しているだけでも電柱という電柱に、参院選とは関係ないものとはいえポスターを貼りまくり、「那覇市屋外広告物条例に違反しています」とシールを貼られている、なりふり構わない動きに動かされてしまうのではないかと心配になる。そうしたことを考えると、昨日の街頭演説でも、県知事をはじめとして、無関心でいる層、相手陣営に流れてしまうかもしれない層を引き入れる強度のある言葉がなく(例外に感じられたのが政治家ではない候補者の長女による演説だった)、そこもまた心配になる。もちろんどの演説もまっとうなことを語られていたけれど、まっとうなことを訴え続けているだけでは倦んでしまう人がいるとして、その層にどんな言葉を投げかけるかを考えないと、状況は大きく変わりかねないと思う。

 

 いつもは音楽を聴きながら330号線を歩くのに、こんなつぶやきをツイッターに書き連ねているうちに「うりずん」に到着する。白百合を2合注文して、ゆるゆる飲んでいるうちにラストオーダーの時間となる。気づけば1階にいるのは僕だけで、贅沢な時間をカウンターで過ごす。